だから心のうちに留めて置けないレベルの感情が膨らんでくると、それが涙となって溢れ出てしまう。
くすん、くすんと腕の中で可愛らしく啜り泣くお姫さんは本当に愛おしくて、背を撫で額に口づけているうちに涙が少しずつ止まってくる。
そこでゆっくりと食べやすいモノを口に放り込んでやると、モグモグゴックンと食べ始めた。
そんなやりとりの時は恋情というよりも庇護欲が勝って、まるで小さな子どもを持つ親のような気分になる。
なので、泣き始めてしまったためまだお姫様が昼食を食べ終わらないうちに午後の最初の競技、障害物競争の時間になって、デモンストレーションを始めて欲しいと係の生徒が呼びに来た時は、断固として拒否をした。
「はあ?お姫さんがこんな状態なのに、誰が離れるんだよ!
時間ずらせよっ!!」
と、ギルベルト的には当たり前の主張をしてみると、係の生徒は眼を丸くして、動揺しながら本部へと戻っていったが、泣きそうな顔で帰ってきて、予定変更は出来ないと告げるが、ギルベルトはそれをさらに拒否。
お姫さんまで大丈夫だから行ってくれと言いだすが、この競技はギルベルトが居ない時はいつもプリンセスの護衛をしているルートも出場するため、今のお姫さんを1人には出来ないとさらに主張。
係はまた本部へ行って、また銀狼寮へと何往復かして、周りも何事かとざわついたところで、
「ギ~ルベルト兄ちゃんっ、じゃあ俺がここにいるよっ!
ね、アーサーもそれで良いよね?
俺も自作のビスコッティ持って来たから、お菓子交換しあって2人で一緒にお菓子食べながらギルベルト兄ちゃんの雄姿を見て、銀寮組の応援しようよっ!」
と、いつのまにかバスケットを揺らしながらフェリシアーノがひょっこりと顔を出した。
へ???
さらにざわつく周り。
ギルベルトもそれには驚いて眼を丸くするが、フェリシアーノはにっこりと
「銀竜はどうせ単体で優勝は狙えないしね。
それならせめて金対銀の方のグループ点は欲しいかなって。
点数の稼ぎ頭だからね~、銀狼は」
「あ~…そういうことか……」
と、納得するギルベルトにうんうんと頷くフェリシアーノ。
「今回はねぇ…というか、今回も?
うちの寮は障害物はクリア出来ないから順位外だし、実質狼と虎に頑張ってもらうしかないし?
…あとはね…」
「あとは?」
「俺、色々な種類のお菓子食べたいからっ!」
ふわふわっと微笑みを浮かべてそういうフェリシアーノに、銀竜だけでなく、あちこちから、可愛いなぁ…と、声があがる。
「…あ、あのっ、フルーツもあるっ!」
と、そこでそれを受けるようにデザート系だけを詰め込んだランチボックスを揺らすアーサーに、わ~い♪とフェリシアーノは駆け寄りかけて、ギルベルトの横で小さく一言
──ちゃんと預かるから大丈夫だよっ
と囁くと、迷うことなくギルベルトの席へとかけ上った。
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