寮生はプリンセスがお好き7章_32

ギルベルトもルートも肌は白い方だ。
しかしそれはしっかりとした白色で、陶磁器のようだとよく言われる。

だがギルベルトの大切なプリンセスのそれはもっと透明で儚げで、どこか脆さを感じる白さだと思う。

手足も肩、腰なども、造り全体が繊細で、強い衝撃を与えれば簡単に壊れてしまいそうだ。

実際自分達では日課になっているレベルの軽い運動でも倒れてしまったりするのだから、その印象もあながち間違いであるとは言えない。

そしてその脆さにひどく惹かれた。
自分が守ってやらねば…そう感じるたび甘美な喜びが心に満ちあふれる。

元々は貴人をお守りする騎士だったという先祖の血は、それから数百年の時を経ても子孫であるギルベルトの中にしっかり受け継がれているらしい。

もっとも…先祖のそれは恋情を伴うものではなかったかもしれないが…。


そう、自分の気持ちは確かに恋情を含んでいる…と、ギルベルトはもう自覚していた。
でなければこんなに独占せずにはいられない気にはならない。

いつでも自分が一番でありたいし、自分以外を見て欲しくないし、自分以外に触れさせたくない。
それは本来の騎士と言う精神からはひどくかけ離れたようなものの気もするのだが…


元々は自分で言うのもなんだが、割合と距離感のバランスはある方で、母親亡きあと、父親と2人で大切に育てた弟のルートの幼少時ですら、最終的に自立できるようにと、可愛がりながらも厳しくするところは厳しく育てたし、感情に溺れるような事は全くなかった。

もちろん、その他の人間関係においても良くも悪くも感情に流されるような事はなかったと言って良い。

好意を持っていても、相手の意志を尊重しながら、互いに適切な距離を置いてつきあう主義で、他人には親切にする一方で、相手は最終的に相手自身の人生を生きて行かなければならないという前提の元、必要なアドバイスは与えてどうしても無理な事は手伝っても、依存させるレベルでの補助は控えるようにしてきたし、逆に相手がこちらに敵意を向けて来た場合でも、自分は自分と流して距離を取る理性もあった。

なのに、プリンセスに対してだけはその鉄壁のバランス感覚が働かない。

可愛くて愛おしくて、何でもしてやってやりたくなってしまうし、むしろそれで依存させて自分の手の中に閉じ込めてしまいたくなる一方で、自分以外に手を出されると、手を出して来る相手を徹底して排除したくなってしまうのだから困りものだ。

感情のコントロールが効かない。
恋はするモノではなく落ちるモノだというのは、本当に言い得て妙だと思う。

始めの頃はそれでも多少はしていた適度な距離を保とうとする努力など、とうの昔に放棄してしまった。

幸いにしてギルベルトの姫君は家庭に恵まれず、実母が亡くなったあとは父親が再婚。
継母と異母兄と折り合いがよろしくなくて、全寮制のこの学園に来たらしい。

こんなに可愛いプリンセスをわざわざ遠くへと追いやったなんて、本当に信じられないが、要らないなら自分がもらってもいいんじゃないか?

そう思った瞬間に、気持ちは完全に固まってしまったのだ。

──俺は合法的にお姫さんを手に入れる!

そう、もちろん法に触れない範囲でなら、手を回し策を弄し他を蹴落とす事も辞さないわけだが…それは単に大切な大切なプリンセスに不安な思い、不快な思いはさせるわけにはいかないからで、本当にプリンセスのためとなれば、どんな手段を取る事も辞さないつもりではある。

それはともあれ、とにかくまずはお姫様の心を掴むところからだ。

正直意図的に他人の気を惹こうとした事はない。
周囲からは好意的な感情を向けられる事も多いが、そういう類の事が特に得意なわけでもない。

ただギルベルトのお姫様に関して言うなら、それまでの境遇のせいだろうか。
心配になるほど他人からの好意に弱かった。

ギルベルトからしたら本当にちょっとした気遣い程度の事で、眼を潤ませてしまう。
そんなところも可愛くて愛おしくて胸がいっぱいになるわけだが、逆に自分以外からの好意に対してもそうかもしれないので、油断できない。

だからプリンセスの安全を守るため、と、称して、寮長の権限を最大限に使って現在抱え込み中だ。

少なくともお姫様にとって自分が特別な人間になるまでは、過度に他の人間を近づけさせないようにしなければ…と思う。

その代わり、お姫様が不安に心を痛めたりしないように、ギルベルト以外の好意が直接届いていない事など気づかないくらいに周りとの距離を完全にコントロールした上で、愛情を注ぎ続けるつもりだ。

こうしてギルベルトは今日もお姫様が大好きな甘い菓子やフルーツもいっぱい詰め込んだランチボックスを作って、自らの手でその小さな口に運んでやるのである。



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