寮生はプリンセスがお好き7章_31

「やっと昼だぜ。
お姫さん、お疲れさん」

「アルト、疲れてないか?大丈夫か?」

 長い長い借り物競走が終わるとランチタイムだ。

生徒達は各々でランチボックスを持参するか、あらかじめ学食に申し込んで学食のランチボックスを届けてもらうかして、テント内で昼食を摂る。

アーサーのランチはギルベルトがあらかじめ吟味した材料で作ってくれたランチボックスで、食事はもちろん、デザートにフルーツや焼き菓子がたくさん入っていた。

座席にはテーブルがついていて、そこに美味しそうなランチを並べつつ、労わりの言葉をかけてくる兄弟。

だが、お疲れさんとか疲れてないかと言われても、アーサー自身はただ馬車に乗っているだけとか、ただかかえられているだけとかで、疲れるような事は何もしていない気がする。

しかしそれを言うと、アーサーをやたらと甘やかすこの兄弟は
「「でもこうして座ってるだけで十分疲れるだろ?」」
などと、口を揃えるのだ。

それでいて自分達は体力を消耗する競技に当たり前に出てるくせに休みもせずアーサーの世話を焼きまくるのだから、本当に困ってしまう。

それも指摘をすると
「いいんだよ。俺様達はプリンセスの剣であり盾なんだから」
と、嬉しそうな顔で言うので、アーサーは自分が本当に愛されるに相応しい尊い人間であるように勘違いしてしまいそうになるのだ。

実際はただ他より小さく骨格などに男っぽさがあまりないので、プリンセスに選ばれただけなのだが…。

本当に照りつけるような日差しにも強い風にも当てないようにとばかりに、大切に大切にされるので、3年後が少し怖いな…と思うが、それでも最強の矛であるカイザーと最強の盾であるナイトに囲まれて、嬉しい…と思ってしまうあたりが、自分でもしょうがないと思う。


──お姫さん、ついてる

少し硬い指先にそっと頭を引き寄せられて、ちゅっと頬に触れてくる唇の感触にアーサーは俯いて赤くなる。

顔に食べ物をつけると、最初はナプキンだったのが、そのうち指先で…さらに最近はこうして直接唇で吸い取られるようになって久しいわけだが、アーサーはこの距離感に未だ慣れない。

実際に弟を持つ兄であるギルベルトにとっては、それはおそらく幼い弟にするような感覚なのだろうが、本当に絵物語に出てくるような精悍で整った顔で近付いて来られると、同性だというのに、すごくドキドキしてしまう。

だって仕方ない。
こんなに何でも出来てこんなに凛々しくも美麗な顔の青年が、こんなに優しく愛おしげな様子で近づいてくるのだ。

ドキドキしない方がおかしい。


「…アルト…俺様のお姫さん。暑さや疲労で気分悪くなったりしたら言えよ?
部屋に連れ帰ってやるから。
寮の評価なんかより、お姫さんの体調の方が数万倍大事だからな?」

などとやたら言うのはさすがにリップサービスが過ぎるだろう。
寮の評価をあげるためにプリンセスであるアーサーを大事にしてくれているのだから、こんな大切な寮対抗行事にカイザーとプリンセス、両方席を外すなど本末転倒だ。

なのに…リップサービスだとわかっているのに嬉しいと思ってしまう、愛され、大切にされる事に免疫のなさすぎる自分が少し悲しくなる。

そんな風にアーサーが少し泣きそうな気分になってくると、アーサーのこれまでの環境を知っているギルベルトは

「本当だからな?
俺様にとってもルッツにとっても寮生達にとっても、お姫さんの身より大事なもんなんてねえんだからな?
お姫さんに何かあったら、いくら寮が評価されたって、なんの意味もねえ。
少なくとも俺様は学園のルールだからってお姫さんを守りたいんじゃないからな?
お姫さんがどうしても辛いってんなら、学園の外に連れて逃げてやったっていい。
だから…無理だけはすんなよ?」

と、ぎゅっとだきしめて額に口づけてくれる。

その声音が優しすぎて、本気にしたら迷惑だとわかっているのに本当に信じたくなってしまって、そう言う時はいつだってアーサーは最終的にどうして良いかわからなくなって、ギルベルトの胸に顔をうずめて泣きだしてしまうのだ。




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