寮生はプリンセスがお好き7章_30

心臓が凍りつきそうな気がしてくるレベルの冷やかな声と視線。

わかってます、許されません、許されませんって……

俺だって自分がモブだってことは重々承知しているのでプリンセスは遠くで愛でるモノで決して触れてはいけない存在だってことくらいはわかっているし、むしろそうしたいのは山々ですっ。

自分は舞台に乗りたくない、乗りたくないんです~~~!!!!
と、訴えたいのだが、そう訴えるのも怖い。

プルプルとその場で恐怖に震えていると、またふわりと声がした。

「じゃあ…ギルが間に入れば良いんじゃないか?
俺と直接手を繋がずに…」

と、良い事を思いついたとばかりに笑顔でカイザーを見あげるプリンセス。
その愛らしさは並ぶものなし、プライスレス。

「俺様…?」
少し驚いたように自分で自分を指さすギルベルトに、姫君はうんうんと頷いた。

「どうせなら勝ちたいな。
この格好じゃ早く走れないから…ギルが俺を抱えて走る!
…だめか?」

そんな可愛い様子で言われて否と言えるはずもない。
というか、なんだかカイザーが嬉しそうな顔になった気がするのは気のせいだろうか…

「ダメじゃないっ!
言ったろ?お姫さんが望む事なら叶えてやるって。
よしっ!急ぐぞっ!
ルッツ、俺様はお姫さんを抱えるから、お前はそいつを担いで俺様のシャツの端でも握って走れっ!
そいつが走るより早いっ!!」

え?…ええええっ?!!!!

声をあげる間もなく、モブースの視界が反転した。
気づけば、なんとルートの肩に担がれている。

「よしっ!!他はまだ借り物見つけられてねえっ!!
一気に走り抜けるぞっ!!」

「了解したっ!!!」


俄然やる気を出してしまったカイザーとその弟が、それぞれプリンセスを横だきに、そしてモブースを肩に担いだ状態で、トラックを1周疾走する。

眼がグルグル回る。
すごい速さで景色が通りすぎていく。

2人とも人を抱えている速さではない。
ありえないっ!!!

周りはその様子にある者達は歓声を、ある者達は驚きの声を、なかには悲鳴をあげる者もいる。

とにかく何がどうなっているのか、何故こうなったのか、モブースには全く持ってわからないわけだが、会場は一気に大騒ぎに…

そして当たり前に一着でゴールした。


元々見つけにくいものばかりを借り物として指定しているため、他の部はまだ戻っていない。
そんななかでゴールしたモブース達を前に、

「…これは……いい…のか?」

と、教師が微妙な表情で顔を見合わせる。

が、

「借り物と一緒にトラック一周しろというだけで、選手自らが走れとは言ってねえよな?!
それとも…よもや、互いに巻き込まない前提の寮のプリンセスを巻き込ませておいて、プリンセス自らに走れ、と?
返答次第では教師と言えども、銀狼寮を代表する寮長として断固として責任を追及させてもらうが?」

と、人類滅亡でもさせそうな迫力で言うギルベルトに、

「う、うんうん、そうだよなっ!
バイルシュミットが正しいっ!!
不可侵なはずの寮の象徴をNGにしなかった我々が全面的に悪い!
すまんな。来年からはお題にプリンセスもNGにしておくから」

と、彼らは急にひきつった顔に無理に笑みをはりつけて、ぶんぶんと首を縦にふった。

こうして次年度からは借り物のお題のNG項目に、寮長と副寮長も加えられる事になるのだが、ともあれ、プリンセスの優しさとカイザーとその弟の人並み外れた体力筋力のおかげで、同人活動同好会は無事、今後3年間は現在使っている校舎の片隅の部屋でひっそりと活動を続けられるようになったのである。



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