寮生はプリンセスがお好き7章_29


それでもずっとこうしているわけにはいかない。

そう、飽くまでルールだ。
自分がそう望んだわけではなく、そういう競技でたまたま引いてしまったお題を口にするだけだ。

「…あ、あの……」
「……」
「ぷ……」
「ぷ?」

プリンセスをっ!!
「「はああぁ??!!!!」」

思い切り過ぎて思いがけず大声になったそれに、それまですでにモブースに注意を向けていなかったカイザーまで反応して、兄弟が刺々しさ+いかつさを前面に聞き返してくる。

1人でも泣きそうなのに、2人揃うと恐ろしすぎて失神しそうだ…。

しかしそこで天使の声…

「プリンセスって…俺で良いのか?」
と、当たり前に腰を浮かせかける自寮の至宝。

ああ…優しい…可愛い…天使……

尊すぎて涙がドバーっと溢れ出た。

それに勘違いしたらしい。

「えっと…俺じゃダメなら…フェリまでなら頼んであげられるけど……」
と、困った顔。

ダメじゃない、ダメなわけない!!!

モブースはブンブンと首を横に振って、泣きながら言った。

「ダメじゃないですっ!!
お題が銀狼寮のプリンセスで……」

と、その言葉に

「じゃあ、大丈夫だな」
と、ほわっと浮かべる笑顔の可憐さ。

そんなプリンセスに癒されすぎて、モブースはすっかり忘れていた。

目の前で殺気をみなぎらせているセコム達の存在を…


じゃ、そういうことで行って来る!と、立ち上がりかけるプリンセスの肩をカイザーはしっかりと掴んで座り直させ、プリンセス所有の一枚の盾を自任するルートは、そんな2人と外敵とみなしたモブースの間にズザっと身を割りこませて、プリンセスをガードする体勢に入った。

「…え?」
と、いきなり殺気立つ2人にきょとんと眼を丸くするプリンセス。

それにカイザーギルベルトはやや引きつった笑みを浮かべた。

「プリンセスは簡単に貸し出せるもんじゃねえから」

と、分かっている事ではあるが、口でそう断ってくれるあたりはまだ思ったよりは平和的な対応なのだろう。
問答無用で半殺しかと思っていた。

その事にホッとするモブースだが、問題は全く解決していない。
このままでは都(校舎)落ちで、下手をすれば部員が集まっての活動という形を取る事自体が困難になる。

そんな複雑な心中を救い上げるように、優しい優しいプリンセスは

「でも…行かないと彼の部が困るんじゃないか?」
と進言してくれる。

ああ尊い…本当に尊い…

これからは朝起きてすぐと夜寝る前はプリンセスの部屋に向かって拝む事にしよう…
と、モブースは感涙する。


モブースの言葉は問答無用で却下でも、プリンセスの言葉は無碍には出来ないらしい。
カイザーは苦虫をかみつぶしたような顔でモブースを見下ろした。

そして問う。

「確か借り物競走は借り物を手にグランド1周なわけだが…一般寮生の分際でプリンセスを独占して、あまつさえその手に触れてグランドを1周するなどと言う暴挙が許されると、貴様は思っているわけだ?」




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