寮生はプリンセスがお好き7章_28

「うちの寮生じゃないか?
なんかこちらに来たぞ?」

とのプリンセスの言葉に、ああ、一モブに過ぎない自分の顔を覚えていてくれたのか…と、感動するモブース。

さすが我らの副寮長、我らのプリンセス、我らがヒロインである。

「確か…借り物競走だったよな。
何か借りたい物がある?
遠慮なく言って?」

とプリンセスの優しくも可愛らしい声。

それにうっとりするも、次の瞬間、恐ろしいほど冷やかな視線に晒されてモブースは身をすくませた。

「ルッツ、何が必要かを聞いて用意してやれ。
本来はクラブ対抗には寮としては関わらない方針だが、プリンセスは協力してやりたいらしいし?」

「ギルっ!いいのかっ?!
ありがとうっ!!」

「おう。お姫さんの望みならな?」


と、そこで挟まれるカイザーの言葉。
モブースに対する声音は淡々、プリンセスに対する声音はどこまでも優しい。

だが…だが、モブースを見るその視線は淡々どころではない。

憩いのひとときを邪魔しやがって…ということなのだろうか。
絶対零度の風が吹きすさぶような冷たい怒りを含んでいた。

ああ、これ終わった、俺、人生が終わった…

まだ本題にも入っていないのにモブースは思う。


もう黒モブ人生を送るのも悪くはないとまで思った先ほどの自分に蹴りをいれてやりたい。

送れない…黒モブ人生なんて送れない…
黒モブった時点で人生送る前に消されるっ!!


それでもルートに全てを振った時点で、自身とプリンセスの役割は終わったと判断したのだろう。

カイザーはモブースに見向きもせずに、プリンセスの可愛い口にフルーツを放り込んでやるという最も重要な仕事に戻った。

「この競技が終わったら昼食だからな~。
今日はとびきりのサンドウィッチを用意したんだぜ」
と、フルーツを摘まんでいるのと逆の手でプリンセスの頭を優しく撫でている。

ああ…眼福。
やっぱり物語はこうでないと!
ヒロインは絶対にスパダリに愛されてほわほわと幸せそうに微笑んでいるべき!!


モブースがその様子をでれ~っと眺めていると、同じく普段は硬い印象の顔にニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべてそれを眺めていたルートはハッと気づいたらしい。

コホン!と咳払いを一つ。

「で?何が必要なのだろうか?」
と、モブースを振り返った。

そこで萌えの世界から一気に現実に引き戻される。

「モブース?」

言えない…怖くて言えない…

タラリタラリと額に汗をかいて固まっていると、ルートに不思議そうに声をかけられた。
…のだが、本人は不思議そうな表情をしているつもりだと思うが、怖い。いかつい。

捕まれば厳しい尋問を受ける事がわかっている場面で、悪くもないのに怯えてしまう小市民のような気分だ。

こいつ…本当に年下か?
…と、思ってしまう程度には体格が良く、繰り返すがいかつい。




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