寮生はプリンセスがお好き7章_27

──当たりませんように、当たりませんように、当たりませんように……

高1B組、銀狼寮の片隅で生きているモブ男子高生のモブース。

部活も現在はなんとかぎりぎり校舎の片隅に確保された部室で同人誌などを作っている、同人活動部。

多くは望まず、その代わりにひどく大変な事も経験しないで良いように…そんな彼の信条は、クラブ対抗借り物競走のお題箱から引いた紙を目にした瞬間、粉々に砕け散った。

借りてくるもの:銀狼寮のプリンセス

さ~っと一気に血の気が引いた。

人間の顔色というものはこんなに急激に変わるのか…と、周りがその見事さに驚き、ああ、あいつ引いちまったんだな…と察する程度には…


無理だ…絶対に無理だ…と、モブースは膝をついて天を仰ぐ。

3人1組での競技ということで隣に控えていた親友2人も膝をついて砂を握り締めた。

どうやって借りてくるんだ?
誰が貸してくれるんだ?

自寮のプリンセスなわけだからちょっとお願いすれば…と思うやつは甘い。

プリンセスは尊い存在だ。寮の宝だ。
それが簡単に借りられたりすれば、プリンセスの名誉、しいては寮の名誉にかかわってくる。

寮の名誉はとにかくとして、プリンセスの名誉にかかわるとなれば、そのプリンセスを大切に大切に溺愛している自寮の最強の寮長、校内1の優秀なセコムと評判のギルベルトが許すはずがない。

申し出た時点で再起不能にされた挙句、社会的に抹殺されそうな気がする。


確かに動かせないモノでもなければ、学校に持ち込めないモノでもないので、ルールとしては違反してはいない。

だけど…だけど、絶対に無理だろおおぉぉ~~!!!!


モブースは絶望した。

(俺ら…これが失格だとしたら…順位どうなるっけ……)
と、遠い目で考える。

最下位は0点だが、失格はマイナス10点だ。
確実に都落ち…ならぬ、校舎落ち。

校舎に入りきらない部のために建てられた建物には印刷機がない。
まず親に頼んでそれを購入してもらって……
そもそも、資料も本も多いため今の部室でもギリギリなのに、部屋の大きさによってははたして人間が作業する場所を確保できるかどうか…

さらに安全上の問題で部外者が校内に入るためには非常に厳重に煩雑な手続きを踏まなければならないので、部室の引っ越しは各部の部員自身が行うわけなのだが、あの量の本を校舎から持ちだして、棚も持ちだして、100mほど離れた部活用の建物に運ぶと思うと眩暈がする。

以上の理由から校舎落ちは勘弁してほしい。
だが…命も惜しい。


チラリと遠く銀狼寮のテントに目を向けると、カイザーが手ずから真っ赤なラズベリーをプリンセスの小さな可愛らしい口に放り込んでいるのが見えて、ほんわりと幸せな気分になる。

プリンセスに向けるカイザーの視線はどこまでも愛しげで優しい。

モブースは途中に多少の困難はあっても良いが、ヒロインには最終的には絶対に幸せになって欲しいハピエン主義なので、スパダリに大切に大切に慈しまれているヒロインというこの構図は非常に性癖を刺激するものがある。

そして…やけくそな気分で思う。

自分…もう、ヒロインに不埒な事を言う輩として主人公に退治される役でも良いかな…

自分の家は白モブ家系だが、遠い親戚には黒モブとして名を馳せた人間もいるようだし、白モブとしての家は兄が継ぐから良いだろう…。
きっとこれで自分は黒モブとして語り継がれるに違いない…

行かないという選択肢はないので、スタートの掛け声と共にすっかり自暴自棄になって自寮のテントへと走っていく。



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