そんな寮長サイドとは対照的に、トラックに集まった各部の部員達は殺気立っている。
なにしろこの競技には、寮主体の競技と違って名誉とか評価だけではなく、色々と物理的な物がかかっているのだ。
毎年この競技の順位で部費が決定する。
1位からビリまでしっかりとだ。
しかしそれはまだ良い。
金持ちの子息が多く通うこの学校では、たいていは各部に最低1人くらいは部費が足りなければ実家がぽ~んと出してくれる資産家の子息が所属している。
ただそれが部長や部の中心になっている人物でなかった場合、部内に微妙な空気が流れたり色々な揉め事の原因になったりする場合がないとは言えないので、出来れば避けたいところではあるのだが…。
それでもそういう事情があるので部費の件は絶対的に困るというものではない。
問題はもう一つの方だ。
さすがに毎年の事だと大変なので毎年ではないが、3年に1回、3年分の体育祭での点数の合計で上位の部から部室の場所が選べるという制度がある。
皆、出来れば校舎の中、もしくは校舎やグランドから近い、あるいは場所がとにかく広いなど、好みの部室が欲しい。
一度決まってしまえば3年間は変えられないというのもあって、皆必死だ。
これはもう、どれだけ親が金持ちだろうと、よしんば国家元首の子や孫であろうと、どうする事も出来ない。
とにかく競技に勝つしかない。
ということで、普通にリレーなど運動神経がモノを言う競技だと運動系の部が圧倒的に有利になるので、平等を期するため競技は毎年借り物競走となっている。
これならもう抽選と一緒で、早くゴールできるかは単純に運だ。
借りるものは平等に各部の部長が一つずつ書いて箱に放り込み、放りこんだ箱をシャッフルして、そこから各選手が引くというものである。
借りる物のルールとしては校舎、海、美術館の展示品など、絶対に手に入らない、持ち運べない物、学校にない物などは不可。
不正がないように各部長に渡す紙にはそれぞれ教師側で決めた印が印刷してあり、教師達にだけは何部の部長が何を書いたかわかるようになっている。
なので不可な物を書いた部は失格でマイナス10点となる。
ということで、だいたい自分が書いた紙が自分の部員に当たる確率よりは他の部の部員に当たる確率の方が遥かに高いだろうし、部長はルールから逸脱しない範囲で可能な限り入手困難な物を書くのが通常だ。
なので全競技一クリアが困難で、終了までに時間がかかる。
それゆえの各寮長、副寮長の憩いの時間になるわけなのだ。
そして今年がその3年目。
部費と部室と…もちろん両家の子弟が多いので名誉もかけて、新たな順位が決定する最後のクラブ対抗借り物競走が行われる。
──これで決定だからな。うちは最下位でなければ校内の部室は確保できる
と、例年勝ち続けた某部の部長が、借り物を記入しにきた他の部の部長陣を前ににやりと笑った。
そして
「だからちょっとお遊びに、ルール的にはクリアだが借りるのは無理なお題を入れさせてもらったぜ!
自分のお題が自分の部員に当たる確率なんてことはほぼないからな」
と宣言。
──それは一体?
と言う他部長の問いに対するその答えに、その場に居合わせた部員達は悲鳴をあげて震えあがった。
どうか自分にそれが当たりませんように…
お題を引く全員がそう祈る中、とうとうお題のクジ引きが行われたのである。
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