寮生はプリンセスがお好き7章_25

クラブ対抗リレーはギルベルトが呑気に他人ごとで観戦できる数少ない競技だ。

なにしろ参加する部や同好会というのは、各寮の寮生が入り混じって所属している。
だからどの部が勝ったからどの寮が評価されると言う事もない。

むしろ寮長カイザーや副寮長プリンセスは、部に所属すると部に入っていない寮生達や、下手をするとどこかの部に所属している寮生ですらも便宜を図ってしまう可能性があることから、中立でいるために部に入る事ができない。

だから本当に完全な中立、完全な他人事だ。

というわけで、自身も結構競技に参加するため忙しいギルベルトも、今回はお姫さんと並んでタンブラーに用意したキンキンに冷えたアイスティを飲みながら、トラックと主催が用意した大きな電光掲示板に映し出されている参加者には時折目をやる程度で、主に隣で自分と色違いのタンブラーを両手に持ってコクコクとアイスティを飲んでいるお姫さんを観察していた。

(お姫さん、この両手持ちがめちゃ可愛いよな。リスみてえ)

と、隣を見下ろすと思わず笑みがこぼれ出る。


3歳年下の中学1年生…というのを別にしても自寮のプリンセスはちっちゃくて華奢で愛らしい。

そんな風に眺めているギルベルトの視線に気づいて不思議そうに見あげてくる吸い込まれそうに大きい澄んだまんまるの目は、メロンキャンディのようで、可愛らしくもどこか美味しそうだ。

「…ギル?」

と、それは癖なのだろう。
コトンと小首を傾げてくるプリンセスに、

「ああ、部対抗競技は寮長も副寮長も関与しねえから時間あるし、フルーツでも食うか?
食うならクーラーボックスから出すけど?」

と聞いてやると、ちっちゃいくせに意外に食いしん坊な姫君は、ぱあぁ~っと嬉しそうな顔になってうんうんと頷くので、ギルベルトはホルダーに自身のタンブラーを置いて、各種ベリーやチェリーの入ったタッパーを出す。

そしてきちんとアルコール消毒した指先で中身を摘まんで、あーんとその可愛らしい口に放り込んでやった。

ぱくん、ぱくんとそれを美味しそうに頬張る様子は本当にいとけなくて雛鳥のようで、胸の奥からほんわりと温かい感情がわき出てくる。

可愛い、本当に可愛い。

ただただ守ってやりたい、可愛がってやりたいというだけの綺麗な感情。
おそらく父性本能というものなのだろう。

柄にもなくそんなものを感じながら、ギルベルトは戦いの中での束の間の休息を楽しんだ。

そんな和やかな過ごし方はギルベルト達だけではない。

このクラブ対抗の借り物競走は全競技中一番と言って良いほど時間がかかる競技ということもあり、体育祭の間中、色々に気を配らなければならない寮長としては一番ホッと一息つける時間なので、他の寮の寮長達も今回ばかりは同様にゆったりと過ごしていた。


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