寮生はプリンセスがお好き7章_22

/* やや番外風味の銀狼寮モブ寮生視点の話*/

モブース・モブラウン、18歳。

世界レベルではないが割合と裕福な家の次男として産まれる。

世界レベルと言えば、遠い親族にはモブ世界では有名な黒モブおじさんもいるらしいが、モブースの実家は金持ちモブには珍しい白モブの家系である。

しかし金持ちである…その時点で白モブとして生きるのは難しい。
だって、普通の学校に入ったらどうしたって目立つ。

モブースの一族のモブ男達は目立たない人間で大衆に紛れることなどお手の物だが、一部の玉の輿願望の女子のセレブを嗅ぎ分ける能力を舐めてはいけない。

モブースの実父は齢8歳でそれであやうく有名人になりかけて、白モブとしての立場を守るため、転校したのである。

そう、世界の金持ちが集まるため、モブラウン家などわらわらといる末端の小金持ち…というのにも足りないような立場になれる、このシャマシューク学園小等部へ。

実父はその時の経験から、モブースの5歳離れた兄もモブースも、最初からこの学園の小等部へと通わせてくれたので、モブースは平和にモブ生活を満喫中だ。

どこにでもいるモブとして、中の中の成績。
運動神経も良くも悪くもなく、美術や音楽も基本に忠実にきちんと、だが、特出するような才能もなく、友人は同じようなモブ気質の少年が2,3人ほど。

モブ生活は順調だ。

みな、そんなモブ生活など何が楽しいのだ?守る価値などないのでは?と思うかもしれないが、それは間違いである。

モブは楽しい。
モブースは断言できる。

確かにヒーローやヒロインはみんなにちやほやされるかもしれない。
だが、光あれば闇があるように、彼らは称賛や好意だけではなく、悪意や嫉妬も多く向けられる。

恵まれている、優れていると認められれば、それをひがむ相手と言うのは必ずでてくるものなのだ。

その点モブは良い。

不特定多数に自分の存在を認識されない分、自分次第では小さな好意の輪の中で生きていく事が可能だ。

特にモブースのように生活に困らない程度に金持ちの白モブは、世間の片隅でひっそりと誰にも認められず、しかし誰にも疎まれることもなく、静かにただ好きな趣味に没頭して生きると言う事もできる。

自分で言うのもなんだが、それはとても幸せな人生だと思う。


特にモブースはいわゆるオタクで、大勢と交わりたいとも思っていないし、むしろ自分は目立たず推しをジッと観察していたいタイプなのでなおさらだ。

小等部の頃は学校から帰ると好きなゲームの推しキャラのためにすでに重課金ユーザーだった。

もちろん本人の名義ではなく、実父名義のアカウントではあるが、実父もそんなモブースのモブ気質を認めてくれていたので、それに対しての注意は

──お前は飽くまでモブなのだから、ランキングの5位以内には入らないよう注意しなさい。

と言う事だけだった。


──大丈夫っ!100位以内ならランキング報酬がフルでもらえるからっ!

そう、弾んだ声で言いつつモブースは毎回30位から70位くらいになるよう調整しつつゲームを進め、学校で同じような趣味の同じような性格の少年達と友人になり、中学で全員めでたく同じ寮にはいった。

この寮と言うのも、素晴らしい。
萌えの宝庫だ。

特に能力的に優れた高校の寮長と寮生全員にかしずかれお守りされる副寮長プリンセスというルールは、モブとしてひたすら推しを愛でる事を楽しみたいモブースのモブ気質を刺激する。

まあ実際は、その時の寮長は本当にたまたまなってしまったらしい外部生の高校生で、今ひとつパッとしなかったのだが、副寮長は違った。


──うちのプリンセス、あれ、姫ってより攻めだよなっ?!
──うんうん、絶対に攻めだと思う!!
──っつ~か、【エルサイア・オデッセイ】のローランに激似じゃね?!
──あ~!!俺もそう思ったっ!!お前もかっ?!!

そう友人達と盛り上がった話題の副寮長はギルベルト・バイルシュミットと言って、欧州の名門貴族の跡取りである。

絹糸のようにサラサラと輝く銀色の髪に陶器のように綺麗な白い肌。

スッと切れ長の吊り目がちな眼の色は何とも珍しい血のような真紅で、まるで彫刻のように整った顔立ちと相まって、現実の人間とは思えないほど美しい。

それなのに綺麗なだけではなく頭脳明晰スポーツ万能、芸術的才能もあるらしく、特にそのフルートの音色は音楽の教師も絶賛するほどだ。

さらに、元は古く、騎士を端に発する家柄と言う事で、武術も一通り以上に身につけていると言う完璧さ。

そのどこまでも美しく凛々しい副寮長は、一応プリンセスなので長髪のウィッグをつけてはいたが、地毛だとモブースと友人2人のはまっているアニメの主人公にそっくりで、見ているだけで楽しかった。

カイザーではなくプリンセスなのが残念だが、彼はウィッグをつける以上の女装はせず、イベントでも華美な軍服を身につけるのみで、守られるなんて事もなく、自ら寮の点数を稼ぐために色々なイベントに参加して勝ちに行くタイプだったので、長髪キャラだと思えばまあいけた。

──贅沢を言えば…ヒロインをお守りして欲しいよなぁ…
──うんうん、せっかくローランに激似なのになぁ…
──これでアリア似のヒロインが居れば、俺達の学生生活完璧バラ色じゃね?

と、モブ3人で夜毎盛り上がること3年間が過ぎて行った。



そして高校にあがる1カ月前…寮長選出で当たり前に次代の寮長の座を勝ち取る自寮の元プリンセス。

盛り上がるモブース達。

──これで今年、アリア似の中等部生でも入ってくれば完璧なんだけどなっ!
──だよなっ!!
──まさかそんな都合の良い事は起きねえよ。
──まあなぁ…そうだよなぁ……

と、そんな事を話しながら、やがて入学式前日になり、奇跡は起きた。



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