寮生はプリンセスがお好き7章_21

腕にすっぽり収まってしまう華奢な身体。
ごつごつとした自分や実弟ルートと違って、どこか柔らかい感じがする。

ふわりと香る花の香りは、別にコロンなどを付けている様子もないので、元々なのか、もしくはボディソープの香りなのだろうか…。
とにかく良い匂いがする。
  
そのことで、ああ、自分達とは同じ性を持っていたとしてもどこか違う人種なんだ…と、柄にもなく少しばかり緊張していると、腕の中のプリンセスはこちらもこちらで、スン…と鼻を鳴らす。

やべ…俺様汗臭いっ!!!


普段はどちらかと言うと几帳面で汗をかけばシャワーも浴びるしコロンもつけるが、なにしろたった今競技を終えたところである。

そんな暇があったはずもなく、しかしながら、素でそんな甘い花の香りを振りまいているお姫さんからすれば、汗にまみれたムサく臭い男と思われるのではないだろうか…


「わりっ!汗かいたからちょっと匂うよなっ。
デオドラントふりかけてくるわっ」

と、慌ててアーサーから離れようとするが、ぎゅうっとギルベルトの背に回された小さな手は離れない。

え…?

と、そこはもちろん無理矢理引きはがすなんて事は出来るわけもなく、一瞬止まると、ギルベルトの胸に顔をうずめたまま、ぽつりと…

──ギルの匂い…ホッとする…
と、ふるふると首を横に振った。

お~~~い!!!!!

わざとかっ?!
煽られているのかっ?!
今この場で攫って欲しいのか、自制心を試されているのか、どっちだ?!!!

男の中では最も異性に夢を見がちだと言う男兄弟の長男なギルベルト…。
ああ、別に異性なわけではないが…ないけれど、相手は紛れもなくみんなのお姫様なわけで……

無理っ!!可愛すぎてマジ無理っ!!!

そう、実は可愛いものに免疫があまりにないギルベルトは、どう反応して良いかわからず

──お~ひめさ~~ん…

と叫んで絶句した。


顔なんてとっくに熟れたトマトみたいに赤くなっているだろう。
それをせめてもと片手で隠す。

匂い?俺様の匂いが好きってっ?!!

色々がクルクル回って絶賛パニック中。

以前の高3組の泊りがけのイベントでのお姫様の痴態や高く甘い悲鳴が脳内を駆け巡り、ギルベルトのギルベルトが元気になりそうになる。

これ…本当に誘われてる?頂いて良いってことか?

天下無敵の寮長様と言えど、まだまだDK。
性欲だって人並みにはある。

もう色々がどうでも良くなってきた気がして、頂いてしまおうか…と、時も場所も忘れかけたその時…だきしめた腕の中を覗き込むと、子猫のようにまあるい澄んだ眼がギルベルトを不思議そうに見あげているのに気付いた。

そこでぎりぎり理性を取り戻す。

(…うん…そうだよな。
お姫さんに他意はないんだろうな…。
まだ子猫みてえなもんで…文字通り保護者の気配に安心してるだけだよな…)

ガッカリしたのか安堵したのか自分でもわからないが、とりあえずぎりぎり理性が勝った。

しかし…危ない。
理性には定評のある自分でも危なかったのに、男しかいない学園で、こんなに可愛いのに、あんな可愛い事を言った日には、他の男相手だったら確実に押し倒される。


──そういう発言…俺様以外に言ったら危ねえからな?つか、俺様相手でも危ねえ…

と、そこは注意しておかないとと思って口にすると、きょとんと小首をかしげる様子がまた可愛くて理性が揺らぎそうになったが、必死に堪える。


その態度やら発言やらをどう取ったのか、お姫さんの口から出た言葉は

──お疲れ様。勝利をありがとう、ギル


ああ、もう絶対に理解してねえっ!!
ぜえったいに危険性を理解してねえけど…やっぱ可愛いぜ、お姫さんっ!!

そう思ってギルベルトはだきしめる腕に力をこめた。


もう良い。
可愛いは正義だ。

こんなにお姫さんは可愛いんだから、自分で自衛なんてしないでも、俺様が守れば良い話だよな!

そんな風に思いながら……




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