なのに不安感は全くない。
──外見えねえから、お姫さん、ちょっと怖かったか?
──まあ俺様が居れば何があっても大丈夫だからな~
──お、トップがすぐそこだっ!
──抜かすぞ~!!
──金虎はもう寮長出て今は一般寮生だから余裕だなっ!
──抜かしたぜ~!さすがに俺様相手にガチバトル仕掛けてくるほどの馬鹿でもなかったか~
などなど、重い馬車を牽きつつかなりのスピードで走っているはずなのに、ギルベルトは軽快な口調でアーサーを元気づけ、気づかい、声をかけ、状況を説明してくれる。
そして何事もなくゴール!!
一位を迎えるピストルの音。
歓声につぐ歓声。
──お姫さん、トップでゴールだぜっ!!
と、ふわりとまくしあげられる砂避けのシートの向こうで晴れやかに笑う愛しの銀色の狼。
「良い子で頑張ったなっ!」
そう言いながら自らが馬車の中に来て、とりあえず、と、競技の間、アーサーがずっと縋るようにだきしめていた銀狼のヌイグルミをとりあげて、スルリとその首の蝶ネクタイを外すと、自分の首に。
そして
「ほい、こいつの役目は終了。
お姫さんのダーリンが迎えにきたぜ~!」
と、競技で高まったアーサーの緊張をほぐすように笑う。
ああ、本当に我らが寮長はいつでも余裕があっていつでも細やかなフォローを忘れない。
アーサーがそんな風に感動していると、ギルベルトはそのままアーサーを固定していたクマの腕を外し、自由になったアーサーの身体をぎゅっとだきしめてくれた。
思い切り走りぬけたためだろう。
汗でいつもより濃くなったギルベルトの体臭と砂の入り混じった匂い…。
クン…と、鼻を鳴らして吸い込むと、ギルベルトは
「わりっ!汗かいたからちょっと匂うよなっ。
デオドラントふりかけてくるわっ」
と、少し慌てたように離れようとするが、アーサーはギルベルトにしっかりとだきついたまま、
──ギルの匂い…ホッとする…
と、ふるふると首を横に振った。
………
………
──お~ひめさ~~ん…
若干大きくなる声に不思議に思って顔をあげると、そこには片手で顔を覆ったギルベルト。
耳まで赤くなっているのは、走ったせいだろうか…と、こてん、と、アーサーが首をかしげると、アーサーの視線を遮るようにギルベルトはぎゅっと自分の胸元にアーサーを引き寄せる。
アーサーの耳元に寄せられる唇。
そして…
──そういう発言…俺様以外に言ったら危ねえからな?つか、俺様相手でも危ねえ…
と、小さな…しかし熱のこもったような囁きがおちてきた。
ドッドッドッドッ
押しつけられた胸から聞こえる鼓動は早い。
(全然なんでもないように走ってたけど、やっぱり俺一人乗せた馬車を牽きながらあのスピードで駆け抜けるのはギルでも大変だったんだな…)
──お疲れ様。勝利をありがとう、ギル
普段はなかなか照れて言えないのだが、せめても…と思って口にすると、アーサーをだきしめる腕の力がぎゅっと強くなった。
こうしてアーサーの初の参加競技がトップの成績で終了した。
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スノさんの小説いつも読ませていただいてます…!
返信削除どの作品もとても素敵で毎日、小説を追いかけるのが楽しみになっています!ありがとうございます。
これからも応援しています!!
いつも読んで頂いてありがとうございます!
削除毎日少しずつではありますが更新しているので、これからもお付き合い頂けると嬉しいです(=´∇`=)