寮生はプリンセスがお好き7章_17

──お姫さん、トップでゴールだぜっ!!

ふわりとまくしあげられる砂避けのシート。

そうして、安全と引き換えに完全に視界を遮っていたそれが開かれた事で、アーサーはようやく完全に状況を把握する事ができた。

なにしろ見えないものの音だけは聞こえていて、ののしり合う声、何かが強くぶつかる音など、アーサーには何も衝撃や激しい揺れは感じられないものの、ずいぶんと尋常ではない様子だった。

特に第一走者の間…


馬車を牽いてくれているのはルートだと言う事は分かっていたし、信頼をしていないわけではないが、とにかく外部では乱闘のようなものが起こっているような音が聞こえるのに、視界が遮られて状況が全くわからないので不安が募る。

派手に何かがぶつかりあう音。
一瞬止まる自寮の馬車。

しかし衝撃がないところをみると、別にこの馬車に何かされたわけではなさそうだ。

そうなると…まさかルートに何か?!


ハラハラとするが、様子を見ようにも身体を大きなクマにしっかりと固定されていて手が届かないため、砂避けをまくって外を見る事すらできない。

アーサーはぎゅっとギルベルトを模したという銀の狼のぬいぐるみをだきしめながら、時間がすぎるのを待った。


そしてまたすぐ走りだす馬車。
その後しばらくして止まったのは、おそらく走者が交代するためらしい。

その時馬車のすぐそばから

「大丈夫。ルッツも怪我もなく交代してるし、順位も2位と順調だ。
邪魔してきそうなあたりも勝手に潰れたから、心配しないでいい。
お姫さんはただ銀狼の俺様をだきしめて昼寝でもしててくれ」

と、聞きなれた声。


ああ、こんな競技中の切迫している時だと言うのに、ルートがバトン代わりのベストを脱いで手渡して次の走者がそれを身につけて出発するわずかな間に、自分の不安を気づかって声をかけてくれるなんて、本当にギルベルトはどれだけ余裕があるのだろうと思う。

こんな寮長が率いているのだから、きっとこの競技も問題など欠片もないのだろう。
心の底からそう思えて、アーサーは

「うん」
と、小さくそれに答えた。



第二走者、第三走者の間は本当に静かなものだった。

第二走者でどうやら1人に抜かされたようだが、おかげでトップ争いの外に身を置いたせいだろうか…第三走者になると前方でやはり争うような音がするが、アーサーを乗せた銀狼寮の馬車はただただ静かにカタカタと進んでいく。

そしてついにアンカー。

──お姫さん、お待たせっ!俺様だぜ~!ちょっと飛ばすからクマにしっかりだきついてろよっ!

と、言うギルベルトの声に、心底安堵する。

もちろんそれだけの実力はあるのが前提だが、ギルベルトは存在自体が他人を安心させる何かがあるとアーサーは思う。




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