寮生はプリンセスがお好き7章_16

このごたごたで金竜寮もトップ争いから脱落。
残るは金虎寮と銀竜寮だ。

こうして2寮から攻撃を受けたのもあって時間を食ったが、それでも鍛え上げた筋肉にものを言わせて、ルートは1番手からわずかに遅れて2番手で次の走者にバトンタッチ。

全身から汗を吹きだしながら、交代エリアで待機中の兄に

「トップじゃなくてすまん」
と、頭を下げるが、ギルベルトは

「いや、2寮に集中攻撃で2番手につけるなんてかなりすげえぞ。
さすがルッツ!さすが俺様の弟だっ!!
筋トレ頑張った甲斐あったなっ!!」
と、くしゃくしゃと汗でびっしょりの弟の頭を撫でまわした。


その後、第二走者で何故か遅れる銀狼寮。
順位は入れ代わり、1位が銀竜、2位が金虎、3位が銀狼となる。

いったいどうしたんだ?!と、ルートは驚いた顔で兄の様子を見るも、隣で出番を待つ兄が抜かされた瞬間すら眉ひとつ動かさないところをみると、これも作戦の一つなのだろう。


そして第三走者。
ここで金虎は寮長登場だ。

その2人が揃ってバトンタッチしたところで、それに視線を向けたまま、ギルベルトは独り言のように隣に立つ弟に説明を始めた。

「たぶんな、ここでカインが仕掛ける。
金虎はうちに妨害が集中して遅れる事を前提に、作戦たててたんだろう。
トップは銀竜ってことで、ここで寮長のカイン投入で一気に銀竜に追いついて、ラストに寮長もってくる銀竜に逆転されねえように、銀竜を徹底して潰す気だと思うぜ?
だから、2番手にいて巻き込まれねえように、第二走者には3位キープ出来る程度にスピード落として順位下げろって指示しておいた。
で、たぶんここで銀竜が脱落すっから、俺様にバトン渡すまでは金虎との差をつけたまま2位をキープ。
カイン以外の金虎の走者なんて俺様の敵じゃねえからな。
アンカーで一気にトップってわけだ」

「あなたって人は……」

ルートはそれを聞いて、はぁ~っと大きく息を吐きだした。


皆が皆、いかに他の妨害を極力さけつつ重い馬車をけん引して少しでも先に進むかで頭がいっぱいなところに、そんな戦略までたてているあたりが、普通じゃないと思う。

おそらく他の寮長はそこまで気が回っていない。

高3で寮長達のまとめ役でもあるカインですら、ギルベルトが予測した通り、目の前の銀竜寮の馬車を潰すのに頭がいっぱいのようだ。

よもや銀狼寮の馬車と、潰している間に抜かせない距離があいているのが、銀狼寮側の策略だなどとは思ってもみないのだろう。

普通に銀竜寮の馬役がバランスを崩して膝をついたのを横目に悠々とトップを独走していく。

それを追う銀狼寮の馬車はそこでカインの間合いに入らないよう、絶妙なバランスで距離を詰めていった。

そうしてラスト、アンカーでは、スタートの時点では10mほど後方にいた銀狼寮の馬車が金虎寮から3mほどにその距離を詰めていた事で、ようやく全てに気づいたらしい。

「…軍曹…謀ったな…」
と、睨んで見せるも、すでにアンカーにバトンを渡した後なので、カイン自身はどうする事も出来ない。

にやりと無言でバトンを受け取り、自寮の馬車を悠々追いかけるギルベルトに向かって舌打ちをした。



こうして一般の寮生と最強の寮長と称される男のアンカー勝負となれば、3mの差など差のうちに入らない。

あっという間に追いぬいていく。

もちろん妨害を仕掛けてみるという事も出来なくはないが、格闘技その他、力の勝負で一般の生徒が寮長に敵うわけはない。

下手をすればそれで返り討ちに遭うだけではなく、ダメージを負いすぎると他の寮に追いつかれて順位を落とす危険性すらある。

なので、金虎寮はここでトップは諦め、2位をキープすることで妥協する事にしたらしい。

そして無理をせずギルベルトを見送って、銀狼寮1位、金虎寮2位でゴール。
その後、銀竜、銀虎、金竜、ラストに金狼がヨタヨタとゴールした。


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