寮生はプリンセスがお好き7章_14

送られてしまったものは、もう仕方がない。
気を取り直してアーサーはスタートを待つ。

スタート地点には6つ並んだ馬車。

外からは内部は見えないのでどうなっているのかはわからない。
ただ、ギルベルトの話だと、採点が終わって順位付けされた時点で各馬車の内部の写真も公開されるらしいので、あとで他の寮のものも見られるだろう。

ということで、全寮一斉にスタートラインに立ち、最初の馬がバトンの役割である鞍をイメージしたサポーターにもなるベストを頭からかぶった。

銀狼寮の一番手はルートだ。
ただ乗っているだけとは言え、アーサーにとっても中学初の体育祭での参加競技になる。

──位置について…よ~い、

の声に、何をするでもないが緊張する。


パン!!!

スタートを告げるピストルの音…に、アーサーはぎゅっと銀狼のヌイグルミを強くだきしめ直した。


スタートすぐからルートは全速力だ。
最初に差をつける、それがこの競技ではプリンセスの安全を図る上で重要なのである。

この馬車引きリレーは妨害行為もなかば容認されているなかなかに危険な競技で、横並びで競ると、馬役の寮生がわざとぶつかってきたり、馬車をぶつけられたりするのが当たり前となっている。

だから万が一の時に衝撃を吸収するため、どこの寮もプリンセスが乗る馬車の内部にはひっくり返っても怪我をしないようにと、色々趣向を凝らすのだ。

今回の銀狼寮の馬車は中身を可愛らしく作ってあるのでアーサーは全く気付かないようだったが、回転式のジェットコースターの座席を参考に作成されている。

クマのぬいぐるみ風の座席は飾りなわけではない。

すっぽりと後ろからだきしめられるような構造も、実はしっかりと馬車に固定された硬い骨組みを柔らかいクマで覆い、アーサーの肩をすっぽり包むクマの腕は万が一馬車が逆さになってもアーサーの身体をしっかり固定してくれるよう、中身は非常に強固なものになっているのである。

……が、

それはあくまで万が一の時のためだ。

馬車に乗っているプリンセスに不安感や不快感を与える事は許されない。

ただヌイグルミと戯れている間に、いつのまにか競技が終わっている…それがあるべき馬車引きリレーの姿である。

ゆえに横から攻撃されるのを避けるため、ルートはスタートダッシュに全てをかけるのだ。



──いいか、ルッツ、お姫さんに進呈する勝利をもぎ取るのがアンカーの俺様の役目なら、お姫さんの安全を守るのは一番手のお前の役目だからなっ

兄、ギルベルトから散々言われた言葉が脳裏に浮かぶ。



そうだ!

普段ならなんでも一番に貢献するのは兄なのだが、今回、この競技でプリンセスの安全を保つのに一番の貢献をするのは自分なのだ。

プリンセスは自分が守るのだっ!

そう考えると緊張もするが誇らしい。



確かにスピード的な勝利も大事だが、体育祭の全競技…いや、この学校生活の全てを通しての最重要事項はプリンセスの無事である。

そのために一番重要なトップバッターの馬役を自分に託してくれた兄の期待に応えるためにも絶対に失敗はできない。




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