寮生はプリンセスがお好き7章_13

ギルベルトは得意は中距離と言っていたが、寮長の得意不得意は寮生のカラ―にも影響するのだろうか…

短距離は6寮中4位、中距離は6寮中1位、長距離は6寮中3位で終了。

「まあ…最初の競技としてはまずまずだな」
と、その様子を淡々と見守るギルベルト。


そして次は馬車引きリレー。

これはプリンセス参加競技で、リアカーを改造した馬車にプリンセスを座らせて、それを4人がリレー形式で牽いていくというものだ。

リアカーに頑丈な木のカバーをつけた馬車が学校側から提供されるのだが、その中身は改造可…というか、各寮プリンセスが乗り心地が良いように改造する。

牽引するスピードも必要だが、プリンセスが怪我をしないように、少しでも快適なようにする事も評価される。

だから事前の内部の改造も点数のうちだ。


「俺とルッツも馬役で参戦するから、大丈夫っ!
お姫さんは乗ってるだけでいいからな」


もう最初に各寮のテントを見た時点で何が来ても驚かない…そう思ったアーサーだが、ギルベルトとルートに左右の手を取られて案内された馬車を見て小さな小さな感嘆の声をあげた。

砂避けのベールをまくると、中は毛足の長いふわふわの絨毯。
足を踏み入れてみると、おそらく絨毯の下にマットのようなものを敷いてあるのだろう。
スプリングが効いていて、衝撃を吸収するようになっている。

そして最奥にアーサーをすっぽり包んでしまうような大きなクマ。

「これな、寮生達の力作だぜ~!
クマを背もたれにクマの腕がベルトがわりになるようになってるんだ。
座ってみ?」

と、どこか楽しそうなギルベルトの声。

実際、とても可愛らしく楽しい気持ちになるような空間で、クマにもたれかかるように座ると、ギルベルトがクマの腕でアーサーの身体を固定した。

ぬいぐるみの手なのでふわふわとした心地よい感触だが、内部にはおそらく硬い骨組が入っているのだろう。

思いのほかしっかりとアーサーの身体が放り出されたりしないようにガードされるようになっている。

こうしてクマにだきしめられるように固定された状況で、最後にギルベルトが渡してくれるぬいぐるみは真っ白なタキシードを着た銀色の狼だ。

「…この子……」

戸惑いながらも向かい合わせになるようにぎゅっとだきしめると、ちょっと釣り目がちな紅いガラス玉の目と視線があう。

それに、気づいたか…と、ギルベルトは得意げに笑った。

「そそ。裁縫得意な奴が作ってくれた俺様な銀狼。
なかなかに似てっだろ?
競技中は側にいれないから、代わりの護衛な~」

とのギルベルトの言葉に、やっぱりそうだったのか、と、思う。



「可愛いなぁ~、この子」

確かに偶然とは言え、銀狼寮に相応しい銀色の髪の寮長。
さらにそれも偶然だが、ギルベルトは見た目も性格もなんだかどことなく狼っぽい。

そんなギルベルトを模した銀色の毛の狼のぬいぐるみは、本物のギルベルトより幼い感じで、どこか小さなギルベルトのようだ、と、思う。

すごく可愛らしく愛おしくなってきて、アーサーはそのぬいぐるみをぎゅうっとだきしめた。

その瞬間、パシャリとシャッター音。


不思議に思って顔をあげると、写真に撮られている。

…え?
と、首をかしげると、ギルベルトがなにやらスマホを弄りながら説明してきた。

「ああ、馬車の内部もな、別枠の採点対象になるんだ。
採点者は招待したOB達な。
この競技に関しては、実際にゴールした順位と改造した馬車の内部の技術点、2重に評価されるから、プリンセスが乗った時点で写真を本部に送って、それが本部に揃ったとこで、すでに評価が始まってる」

「うあ…言ってくれればもうちょっとちゃんとしたのにっ!!」

心の準備もなくいきなりそんな大切な写真を撮られていた事にわたわたと慌てるアーサーだが、ギルベルトとルート、そしてあと2人のこの競技の馬役の寮生は口を揃えて言いきるのだ。

「大丈夫っ!うちのお姫様は世界で一番可愛いからっ!!」
と。


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