寮生はプリンセスがお好き7章_11

そして始まる競技

短距離走、中距離走、長距離走などは、どこにでもある普通のものだが、中には、それは?!!と目を剥く競技もある。



そのひとつが障害物競争。

いや、障害物競争という種目自体は珍しいものではない。
問題はその内容だ。

スタートは50キロのズタ袋を担いでの100mダッシュ。
この時点で何かもう普通じゃない。

その後は平均台…だけならとにかく、これを逆立ちで渡る。

そして…くす玉割り。
これもただのくす玉割りではない。

地上から2.5mの高さにあるくす玉を15m離れた位置から球を当てて割る…までは良いとして、投げる球…これが重さ6キロの砲丸だったりする…。

その後は傾斜がついて徐々に高くなっていくうんていを進み、高さ3mの丸太を積んだ壁をよじ登り…ラストはハードル走400mだ。

これがなんと中学生種目。
ありえない。本当にありえないと思う。


「…これ…絶対に超えられない選手でるんじゃ?」

スピードを競うとかそういう問題じゃない、と、アーサーが青くなると、ギルベルトはニコリと

「おう。特に前の二つの種目は出来ねえ奴はいつまでたっても終わらねえから、一応時間制限設けてるんだけどな。
それを超えると失格になるから、6つの寮がそれぞれ2人ずつ12名選手を出すけど、毎年ゴールできんのは片手の指の数くらいだな」
と、恐ろしい事実を告げてくる。

「…ギルは?」
「…ん?」
「出た事あるのか?」
「おうっ!もちろん!!
俺様の衣装は毎年軍服の礼装もどきだったし?
で、俺様3年連続トップでゴールしてたんで、今年はパフォーマンスっつ~ことで、他がやる前に俺様が一度全部走ってみることになってるんだぜ」

「ええーーー!!!!」

飽くまでパフォーマンスだからタイムは点数にならねえけどなっ
と、まるで遊びにでも行くように軽く楽しげに言って見せるギルベルトに、アーサーは驚きの声をあげた。

あれを好き好んでやろうと言う心境がよくわからないし、そもそもそんな何かのついでみたいに軽いノリで出来る人間がいると言うのが信じられない。

驚くアーサーに、
──眼がまんまるになって可愛いな、お姫さん
などと言って頭を撫でつつ、ギルベルトは

「ま、今年もトップはうちが頂くぜっ!ルッツが出るからな~!!」
と、自分達から少し下がったアーサーの側の隣に座る弟に笑いかけた。

それに対してルートは斜め後方の兄を振り返り、

「兄さんほどの成果を期待されても困るが…」
と、少し困ったように眉を寄せる。

が、それに対してギルベルトが

「銀狼寮のプリンセスの近衛隊長としては、あの程度は完走してもらわねえと」
と、にやりと言ってアーサーをだき寄せると、ルートもそれには

「もちろん、完走は当然だ。
筋力、持久力はなければプリンセスを守れないからな」
と、気真面目な顔で頷いた。

「…当然…なのか……」

アーサー自身は参加する事は一生ないとは思うが、参加したとしたら絶対に完走できないと思う。

いつか中3になってもきっと無理だと思うのに、同じ中1のはずのルートがきっぱりと完走宣言するのにはもう感心するしかない。

そう言うとルートは出会った頃に努力してそうしていたぎこちない笑みではなく、少しいかついさはあるが自然な笑みを浮かべて、今度はアーサーを見あげて頷いた。

「当然だろう?俺はアルトだけのための一枚の盾だ。
兄さんのように素早く鋭く切り込む事はできなくとも、重圧を力で押し返してお前を守って進むことならできる」


………
………
………

もう…この兄弟は~~!!!!!

普段からテンション高くよくしゃべるギルベルトと違ってルートは普段それほどしゃべる方ではないが、たまに真顔ですご~~く恥ずかしい事を言うので反応に困る。

もう顔が真っ赤になっている自覚がある。

「ケセセっ!照れてるお姫さんも可愛いぜ~!!」
「そういう控えめな性格もとても愛らしいな」

両手で顔を覆うと、隣と斜め下から音声多重で聞こえてくるさらに恥ずかしい言葉。
普段は似てないように思えるが、変なところで実は似ている気がする兄弟だ。


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