生贄の祈りver.普英_6_3

とりあえず協定を破棄して風と大地の連合軍と戦うという覚悟がないなら、風の王自らが来るという以上、来訪は避けられそうにない。


「…あ~…面倒な事になっちまったなぁ……
あそこに暗躍されると嫌なんだよな…心理戦はあそこの十八番だからな……」


日程の調整をするようにエリザに命じつつ、ギルベルトはそのまま廊下に留まってがしがしと頭を掻いた。



武力の鋼、外交の風と、それぞれ語られる両国。


鋼の国が戦闘に長けていて軍事力で取りこむタイプなら、風の国は情報で掻きまわして取り込むタイプだ。

そしてギルベルトが得意な戦闘の時に自らが前に出るように、風の国の王も得意分野では自らが前面に出る。

もちろんそれは武器による戦闘ではない。

…というか、ギルベルトと違って戦闘時に自らが出る事は滅多にしない。

風の王、フランシス・ボヌフォアが自ら行うのはその美麗な容姿を最大限に生かした外交だ。



鋼の国はある意味わかりやすい。
作戦の有無で多少の差異はあるとしても、戦力である程度の勝敗は予測がつく。

しかし風の国はしばしば美しき王が自ら行う外交によって、圧倒的に不利な状況を覆す事もあり、予測不可能だ。

エリザも外交のためにフランシスに会った事はあるが、あの美しさはまさに魔性だと思う。


サラサラとした蜂蜜色の髪に海のような深い蒼の瞳。
完璧に整った人形のような顔立ちは、その表情によって天使にも悪魔にも見える。

油断のならない人物…そうわかっていても、あの綺麗な顔で優しげな表情で微笑まれるとほだされそうになるのだ。


「実は数日前に密書が届いてて…風が言うには、お姫さまはずっと前から風の国へ送られる事になってたんですって。
でも森の方がこっちに傾いて盟約無視してうちの国に送ってしまったから、ただでとは言わないから返して欲しいって」

「それ…いつのことだ?」

「あんたのお気に入りだからってわけじゃなさそうよ。
密書が送られたのはたぶん風がお姫さまの拉致に失敗してすぐくらいだし。
だから…最初は力で取り戻そうとして失敗して、外交でって感じね」

「それだけ風にとって森が重要ってことか?」

「ううん…お姫さまとの交換条件としてうちの国と接している風の領土の一部と、森の国の他の人質、それに森自体から風が手を引く事まで提示してきてるから、あくまでお姫さま個人を御所望って事らしいわ」

「それ…すごい破格の条件だな。…まあ渡す気はねえけど」
「当たり前よっ!」


始めから途中で強奪など考えないで交渉してきてたら、元々はギルベルト自身は乗り気ではなかったのだし、それだけの条件だったら普通に渡せたのだが、強奪という手段を取る事で自分はあの子と出会ってしまった。
もう渡せるはずもない。




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