そう、自分じゃないと嘘をついても仕方ないが、だからと言ってそれならなおさらあそこで自らの発言のせいだと嘘をつく意味もない。
アントーニョの問いに、祈愛は電話の向こうで小さく笑った。
『天使ちゃんが可愛かったから♪』
「は?」
『トーニョの撮影の時、天使ちゃんが可愛かったから。
最初は仲良くしとけばトーニョが少し構ってくれるかな~と思って近づいたんだけど、もうなんだか真っ白で純粋な感じで邪気がなくて…トーニョが保護したくなる気持ちがわかっちゃった。
だからまあなんというか…トーニョだけだったらファイト~とか心の中で応援するか、あとで慰めの電話でも入れてたとこなんだけど。
あたしだってドロドロの争いに巻き込んで良い相手とイケナイ相手くらいわかりますからねっ。
あたしの名前使われた時点で、自分が被るしかないでしょ』
別に腐女子だったわけじゃないけど、他の女にトーニョ取られるくらいならあの子といてくれた方がいいわ、と、最後にそう付け加える祈愛。
「堪忍…親分、自分の事めっちゃ誤解しとったわ。
今日はほんまありがとな。
アーティに影響せんような事やったら、フォローも協力もするから、言ったってな?」
演技力のないグラビアアイドルあがりの胸が大きいだけの女優…祈愛にそんな失礼な認識をもっていた自分を、アントーニョは猛省する。
そして意外にもプロ意識と漢気を持っている彼女に、親愛を感じた。
こうして祈愛に礼を言って電話を切ると、アントーニョはあたりを見回した。
特に誰かが見ている様子はない。
いったい今回の仕掛け人は誰でターゲットは誰なんだ…と、気になりはするものの、今は確認しようがない。
少し状況が落ち着いてからでも、つてを伝って今回の話が本当はどこから来たのか、本当のところをウェンズディの方から聞きだしてみられれば良いのだが…。
とりあえず祈愛の電話の内容についてはメールでギルベルトにも送っておいて、アントーニョは今度こそエンジンをかけて車のアクセルを踏み込んだ。
とにかく今は一件落着。
一刻も早く愛しい天使の元へと帰って癒されよう。
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