初日はずっと堅い感じだったのだが、そうやって笑うと年齢相応のあどけなさを感じた。
そこでアーサーもにっこりと返すと、彼は
「本当にすまなかった…」
と頭を下げて来た。
本人の言葉によると、彼はギルベルトの姉の子、つまり甥にあたるらしい。
と言っても彼が幼い頃に亡くなった実母とギルベルトは年齢が離れていて、彼、ルートとは叔父と甥というより、年の離れた兄弟のような感じで、ギルベルトはルートにとって叔父であり兄であり国父であり誰よりも大切な家族で、アーサーが来る3カ月ほど前に来た外国の使者がその大切なギルベルトの暗殺を企んだことがあり、他国の者を全て警戒していたのだと言う。
ああ…羨ましい。
アーサーは思った。
そこまで心配してくれる家族がいる事も羨ましければ、そこまで心配できる家族がいるのも羨ましい。
しかもその大切な家族が、あのギルベルト陛下だ。
綺麗で強くて優しくて…あんな家族がいて、その大切な家族が殺されるところだったのなら、ルートのあの反応も頷ける。
自分だって同じ態度を取る気がする。
むしろ…振り返って心配してくれなくたって良い。
あんな素晴らしい兄がいたら、自分は心配するだけだって、
あんな素晴らしい兄がいて、あまつさえ心配なんてするくらいに目をかけてもらえたなら喜んで人質にも捨石にもなるだろう。
いいな…と、その心の声は心の中で呟いていたつもりだったのだが、声に出してしまっていたらしい。
ルートがきょとんとしているのに気づいて、苦笑した。
「…俺は…兄さん達に嫌われてるから……そんな風に心配してくれる人は誰も居ない……」
そう補足すると、見ひらかれる目。
ルビーのようなギルベルトの瞳とは違って、ルートの目は涼やかなブルーだが、どちらもどこか意志の強さを窺わせる色合いで、綺麗だと思う。
その意志の強さで…でも慈愛の心をどこかに感じさせるのはギルベルトと一緒だ。
アーサーの言葉に少し悲しげな顔になったかと思えば、何かを決意したように顔をあげ、とても優しい声でアーサーに言う。
「安心すると良い。これからは陛下と俺があなたを守ろう。
現国王の陛下と次代の国王となる皇太子の俺、2人があなたを認めているとなれば、この国であなたに危害を加えられるものなどいないから、大船に乗ったつもりでいて欲しい」
温かい視線。
大切な家族であるギルベルトとの中に入れてくれると言う言葉にしばしうるっとする…。
感動しつつ言葉を反復…反復…はんぷ…く……え…?………
「…こうたいし…でんか?」
いや…国王の身内なのだから偉い人には違いないとは思っていたが……皇太…子…?
もしかして…皇太子を前に挨拶もロクにせず、あまつさえ頭をだき寄せて撫でまわしてた?
これって…不敬…ふ…け………
失神しそうになって問いかけると、ルートの口から
「ああ、そうだが…」
と、当たり前に返ってくる返答。
うあああーーーー!!!!
頭は真っ白、お先は真っ暗な気がした。
あれほど慌てて行動するのはよろしくないと思い知ったはずなのに、次の瞬間、アーサーは悲鳴をあげてその場から逃走したのであった。
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