もちろんその木は綺麗に秩序を持って植えられていたものではあったのだが、生まれてこの方部屋から出た事がほぼないアーサーにそんな違いが分かるわけはない。
ただただ何も聞こえないようにと全神経を足元にだけ集中させて、走って逃げた。
幸い頭上はるか上まである植え込みの木々がアーサーの姿を隠してくれる。
少し離れられたか…というあたりで足を止めて耳を澄ますと、はるか遠くで──捕まえろーー!!──という衛兵の声がして、アーサーは青くなった。
もしかして…鍵が開いていたのは実は手違いで、そこから出てしまったアーサーは脱走した事になっているのか?!
これは…かなりまずいのかもしれない……
もしかしてドアに手をかけなければ、あのまま居られた……の……か……?
──…なのに……うかつに飛び出て逃げてしまったせいで……?
恐ろしい可能性にアーサーは震えあがった。
──どうしよう…もうダメだ……
足から力が抜けてへなへなとその場にへたりこむ。
馬鹿だ…本当に馬鹿だ…
自分から神様の手を放してしまった……
怖くて悲しくて心細くて、どうして良いかわからず、アーサーはとうとうヒックヒックと泣きだした。
が、当然そこにはこのところ何かあれば必ず慰めて気遣ってくれたギルベルトはいない。
その事が悲しすぎて耐えきれそうになくて、──…助けて……──と、それまでは口にするどころか望むという発想もなかった助けの手を求める言葉を震える唇で口にしたその時だった。
周りは植え込みに囲まれているはずなのに、ふわっと良い匂いの風が吹き抜ける。
そしてちりんちりんと銀の鈴が震えるような透きとおった綺麗な声が
──こっちよ…──
と、耳元をくすぐった。
──…え?──
驚いてあたりを見回しても誰の姿も見えない…と思った瞬間、頭上から光の粒が漂ってきて、アーサーは思わず視線を上方に向ける。
ええ???
そこには小さな小さな少女たちだ。
アーサーの掌に乗ってしまいそうな彼女達の背には透明な薄い羽がついていて、羽ばたきをするたび光の粒が空気に舞っている。
──ここは寒いわ?良いところを教えてあげる──
こっちよ…と、頭上を1回転して彼女達はふわふわとアーサーを誘導するようにアル方向へと促した。
不思議な少女たち…だが、悪いものは感じない。
だからアーサーはついて行った。
その不思議な少女達に……
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