生贄の祈りver.普英_5_1

…寒い…喉も痛い…ついでに身体の節々が痛む…

目を覚ました時に感じたのはそんな不快感だった。

何故こんな事になっているのか…と記憶を探れば、思い出すのは自分と同じ年頃の少年の顔。

最初にこの国に来た時に部屋まで案内してくれた、どこか硬い表情をした少年の顔だった。


そもそもが、あの時アーサーが目を覚ますと、いつもは必ず側にいてくれるギルベルトの姿が見えなかった。

それにパニックを起こしたのが始まりである。


冷静に考えれば彼は一国の王だ。
仕事もあるだろうし、それまでアーサーにずっと付き添っていた事自体がおかしい。

だが疎まれる事に慣れ過ぎていたアーサーは、側に居ないイコール嫌われた、もしくは飽きられたのだと思ってしまった。

ここは他国で大国で、自分はその大国に少しでも情けをかけて便宜を図って欲しい小国から連れて来られた人質だ。

いや、この鋼の国の側が人質として遇してくれて初めて人質と言えるのであって、どうでも良いと思われた瞬間、人質にすらなれない生贄に過ぎない。

そんな政治的な立場とは別に、ギルベルトはアーサーにとって物ごころついてからというもの初めてくらい優しい態度で接してくれた相手でもある。

ギルベルトにとっては多くいる家臣や交渉相手の国の人間の1人でも、アーサーにとってギルベルトは唯一の存在だ。

この世で唯一大切な存在…唯一の希望……

そう、まさに神様だ。

その神様が自分に刃を突き立てるなら、それはそれで構わない。
ギルベルトが神様であったなら、自分は貢物として命を摘まれる事は全くかまわないのだ。

でもその神様に要らないと拒絶されて突き返されたら…自分には何の価値もない。
どうして良いのかも分からない。

だから動揺した。
怖かった。

とにかくジッとしていられなくて、ベッドを飛び出てリビングを見て、トイレも風呂もどこもかしこも見て回って、最後に辿りついたのは廊下へ出るドア。

最初にこの部屋に連れて来られた時、案内してくれた少年が外から鍵をかける音が聞こえたあのドア。


開いてはいないだろうと半ば思い、でも開いていたら…と思ったら怖くなった。
そしてちゃんと閉まっている事を確認したくてドアノブに手をかけて回したら、ドアはあっさり開いてしまった。

もうお前は必要ない。
ここから好きに出ていけ。

そんなギルベルトの意志表示なのだろうか…と、アーサーはさらにパニックを起こす。

どうしよう、どうしよう、どうしよう……


自由に出ていくように鍵が開けられている…そんな事に気づかないフリでいれば、このままここに…今まで通りに居られるのだろうか……

そう思ってそのまま戻ろうと思った瞬間、誰かに声をかけられた。

しまった!気づかれてしまった!!
アーサーが出ていく事を望まれている事を知っている事を知られてしまった!!

そう思った瞬間、パニックは最高潮に達した。

そしてパニックを極めたアーサーはわけもわからないまま、目の前に広がる広大な中庭へと駆け込んだのである。



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