生贄の祈りver.普英_4_4

びっくり眼。
小さな悲鳴。
自分の姿を見て身をすくめて狭い場所なのでギリギリ後ずさられた。


その事にルートは地味にショックを受けた。

伸ばした手の動きをまるで恐ろしい物でも見るような目で追われて、行き場を無くしたそれを仕方なしに引っ込める。

自業自得だ…通常敵対行動を取って来た相手がいきなり近くにいれば警戒する…
理性はそう告げてくるのに、感情の部分は悲しさに揺れて、目頭が熱くなってきた。

そう、思えば実母について覚えてはいないような孤児ではあるものの、物ごころついてからずっと側にはギルベルトがいた。
そして、そのさらに叔父である当時の国王が亡くなって彼が王位を継いですぐ、ギルベルトはそんなルートの身分を保証するためにだろう、自身の跡取りとして正式に発表してくれたため、幼くして皇太子だったルートは厳しく育てられはしたものの、戦場以外、自国城内で他人に拒絶された経験がなかった。

もっとも…それでは受け入れられていたかと言うと、優秀な王であるギルベルトと比べると当たり前に能力は足りず、そうかと言って親しみを持つには身分がありすぎる。

ゆえに未来の国王陛下として堅苦しい好意と忠誠は持たれていたかもしれないが、親愛という意味のものを向けてくれたのはギルベルトだけだ。


国王と臣下というものを通り越して部下や国民に親しまれ、親愛の情を向けられているギルベルトと違って、皇太子という身分を取ったら自分には何もない……

“臣下”でない相手にとっては自分は忌諱する存在なのかもしれない……

王族と臣下という枠組みに入らない同じ年頃の少年の反応に、そんな日常的に感じているコンプレックスが顔をもたげてきて、混乱と戸惑いと悲しみとがクルクル回る。

それはルートの中でミックスされて、それがぽろりと涙となって溢れ出た。


──…え?

と、その瞬間、伸びてくる手。

相手も涙の跡を残しているにも関わらず、ルートのモノよりも細い指先がルートの目尻に触れ、涙を拭ったかと思うと、柔らかい手がそのまま優しく髪を撫でてくる。

──…何か…悲しい事があったのか?大丈夫か?

細く柔らかい声。
だがそれは胸の奥に染みいるような温かさに満ちていた。

優秀な皇太子でないルートを許容してくれるような優しい響き……

──…ごめっ……すまなっ…い……

何か安心感を感じると共にようやく口に出来た謝罪。
すると薔薇に守られた小さな家から出て来た少年は、ふわりと自分より大きなルートの頭を抱え込むようにだきしめてきた。

おずおずとその背に手を回しても、今度は拒絶される事はない。

そうして少年2人は互いをだきしめたまま、ただ何を言う事もなく、しばらく泣き続けた。



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