2人して目と鼻の頭が真っ赤になるほど泣いた後、ルートはまず謝罪をしたあとに、アーサーが来る前に来た他国の王族がギルベルトを暗殺しようとした事、彼が唯一の自分の身内で親とも兄とも慕う大切な人間であること、その大切な人間に暗殺者が向けられた事で他国の人間というものに不信感を持っていて、アーサーの事も人となりを見る事もせず同様に見てしまっていた事などを説明した上で、最後にまた詫びた。
大きな丸い目をじ~っとルートに向けながら、その話を黙って聞いていたアーサーは、最後のルートの謝罪のあとに小さく息を吐きだし、そしてしょぼんと俯いて、
──…いいな……
と、小さく小さく呟いた。
「…?」
許すとでもなく許さないとでもなく、怒るでもなく微笑むでもなく呟かれたその言葉にルートが不思議そうな視線を返すと、へにょりと八の字になる眉。
「…俺は…兄さん達に嫌われてるから……そんな風に心配してくれる人は誰も居ない……」
零される呟きにルートは言葉に詰まった。
あの最初の出会いのあと、兄からアーサーはおそらく自国から追い出されるように来たのだろうと聞いている。
誰も頼るものもなく部屋から出た事もないこんなか細い様子の少年が、いきなりこの国のような軍事国家に人質として送られてきた事自体、ひどく心細い思いをしていたのだろうに、そんな相手に酷い事を言った…と、ルートはまた己の態度を後悔した。
どうやら同じ年らしいが、自分より遥かに小さく弱い少年。
そしてギルベルトがいた自分とは違い、一人ぼっちで心細い思いをしているであろうその少年に安心感を与えてやりたかった。
それで
「安心すると良い。これからは陛下と俺があなたを守ろう。
現国王の陛下と次代の国王となる皇太子の俺、2人があなたを認めているとなれば、この国であなたに危害を加えられるものなどいないから、大船に乗ったつもりでいて欲しい」
と言った。
そう、安心して欲しかったのだ…だが……甘かった。
少年の澄んだ丸い瞳がまんまるく見開かれた。
「…こうたいし…でんか?」
「ああ、そうだが…」
と、ルートがそのあとに言葉を続ける間もなく、少年はまるで肉食獣に出くわしたウサギのように、ぴゃっと飛び上がると、ものすごい速さで駆けだして行った。
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