生贄の祈りver.普英_4_3

それはまるでお伽噺のような光景だった。

小さな薔薇の家。
周りには不思議な事にキラキラとした光が舞っている。


その中で眠る光色の髪をした真っ白な少年。
長い睫毛の先には透明な涙の粒。
それが光に反射してキラキラと光っていた。

それはとても綺麗で、しかし繊細な光景で、土足で踏み入るような真似をしてはいけない気がして、ルートはしばしその場にたたずむ。

自分自身も少年と言って良い年齢なわけだが、少年は少年でもルートは軍事国家で育った少年だ。
今目の前にいる未成熟な危うさをもった相手とは違い、日々剣を持つ手は固く大きく、どこまでも武骨である。

だからこそ…側に行くのがためらわれた。

最初の日…つい数カ月前に親のいない自分を育ててくれた兄のような年齢の叔父を他国から来た愛人候補が暗殺しようとした事件があったところなので、相手をロクに見ずに、他国の者と言う事で敵と決めつけて随分と酷い事を言った事も、近づくのがためらわれる理由の一つである。

だが違ったらしい。
叔父いわく、自国で疎んじられて追い出されるようにこの国に送られてきた自室から一度も出た事がない王子。

きちんとその姿に目を向ければ、そんな事すぐわかりそうなのに、頭に血が登っていた自分は視線を向ける事すら避けたのだ。

その自責の念がルートの足を固まらせる。

叔父は決して弱者を威圧しろなどという育て方をしてこなかったのに、自分はそんな相手を威圧して突き離し、結果、相手は体調不良を言いだせず、ひどく身体を壊す事になった。

……すまなかった………

年のわりに随分と大きく、大人と変わらないくらいの身体を小さく丸めるようにして、そう呟いたルートの言葉は、当然眠っている少年には届かない。

そうしてどのくらいの時間そうして立ちすくんでいたのだろうか…。

目の前でくしゅん、と小さなくしゃみが聞こえて、ルートはハッと我に返った。

そうだ、相手は病人なのだから、早急に連れ帰って温かい部屋で休ませねばならない。

そう思ってその小さな家に近づいて狭い入口の前でしゃがみこんだ時、人の気配を感じて目覚めたのだろうか…

少年がビクッと身をすくめて目を開けると、声にならない悲鳴をあげた。



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