生贄の祈りver.普英_3_9

ギルベルトの大切な被保護者が目を覚ましたのは、翌日の明け方だった。

発見したのが前日の午後でギルベルトはそれから傍らに付き添って、日が落ちてまた登るのを横目に濡れタオルをかえてやりながら、汗を拭いてやっている。


王と言っても割合と自分で動きたい性質のギルベルトだが、あいにくというか幸いと言うか、周りは丈夫だったため、こんな風に誰かの看病をするのなど、甥のルートが幼い時以来で少し懐かしい。
もっともルートの幼い頃の方がまだここまで弱々しさがなかった気はするが…


やがてピクリと長い金色のまつ毛が揺れた。
そしてゆっくりと白い瞼が開いて淡い淡い春の新緑のような色合いのグリーンアイが現れる。
意識がまだはっきりしていないのか、ぽやぁっとギルベルトを見あげてくる様子がなんとも愛らしい。

だが、そんな様子もほんのわずかの間で、ピタっと視線がしっかりとギルベルトを認識するやいなや、目の前の子どもの顔が一瞬にして強張った。

熱でほんのりと赤くなっていた頬から一気に血の気が失せて真っ青になる。
人間の顔がこんなに瞬時に変わるところをギルベルトは初めて見た。

カタカタと震える身体。

「おい、大丈夫か?寒いのか?」
と手を伸ばすと、ビクゥ!!とすくみあがって硬直された。

女子どもにこういう反応を示されるのは少なくはないが、少年、アーサーに関して言うならだいぶ慣れて心を許してくれていると思っていたから、ギルベルトは地味にショックを受けて自分も硬直する。

そして伸ばした手を引っ込めようとしたが、アーサーの大きな目からポロリと零れた涙に、反射的にまた手を伸ばした。

「どうした?どこか痛いか?苦しいか?」
指先で零れる涙を拭いながら言うと、少年はやっぱりカタカタ震えながら小さな小さな声で、“ごめんなさい”を繰り返す。

「へ?何が?そこらの物を壊しちまったかなんかしたのか?
別にそれならそれで新しい物用意するから大丈夫だぞ?」

と言うと、アーサーはさらにすくみあがってブンブン首を横に振った。

「違うっ!なにも壊してないっ!本当にっ!!」

フォローしたつもりが余計に怯えさせてしまったらしい。
やっぱり自分は一般人からすると怖いのだろうか…と、ギルベルトは少し落ち込んだ気分で途方にくれた。



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