生贄の祈りver.普英_3_4

もう日が落ちかけた薄暗い部屋…

「アルト…?」
と、声をかけながら、天蓋に覆われた寝台を覗き込むが、そこには確かに横たわったような跡はあるものの、誰も居ない。
シーツに触れてみても、もう体温は感じられないため、随分前に出たのだろう。


そうすると…?
ちらりとその奥、バルコニーに続くガラス戸に視線を向ける。

夕日は差し込んでいるが、それは日中の日差しと違って熱はない。
むしろ寒々しい風が木々を揺らしている。

日中なら庭に出てみるのも悪くはないかもしれないが、一応駆け寄って開けはなった窓の向こうは、ギルベルトですら身ぶるいするほどの寒さだった。

(…まさか……でも?)

こんな寒さの中で庭の散歩をするとは思えない。
しかし室内にいないとなると、あとは庭以外にはありえない…。


悩む脳内とは裏腹に、頭より身体が先に動く。
ギルベルトは開けたガラス戸の合間からバルコニーへと足を踏み出した。

とたんに冬の冷たい風の匂い。
まだ初冬とはいっても、北に位置するこの国は日が落ち始めるとかなり寒い。



――この冬の寒さのために我が国は強いのだよ…

ギルベルトがまだ幼い頃…城内の塔の上から雪に埋もれた景色を見下ろして、叔父であるフリッツがそんな風に教えてくれた。

雪に閉ざされる国だからこそ、暖かく豊かな春を求めてあがくのだと…。
だから過酷な環境の国ほど強いのだと、息が白くなるような中でわざわざ幼いギルベルトに一緒に寒さを体験させながら、そんな話をしたのだった。


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