まだ不機嫌な声。
まあその不機嫌さが自分に向けられる分には仕方ないと思うものの、せっかく手にした天使ちゃんに怖いお姉さんの怒りの矛先を向けたくはない。
そこでギルベルトは不本意ながら下手に出る事にした。
「あの…な、頼みがあるんだが……」
「だから、なに?!」
ギロリと睨まれ、ギルベルトは冷や汗をかく。
別に自分が何かをしたわけでもないのに、何故ここまでの態度を取られなければならないのか…と思わないでもないが、今気にするのはそこじゃない。
「…アルトなんだけど……」
「はあ?」
「今回連れて来た森の国のお姫さん」
「あっ!!どうだった?!今度こそ気に入ったっ?!!」
と、そこで急上昇するエリザの機嫌。
珍しくエリザと利害が一致する事にホッとしつつ、そこは素直に
「ああ。すっげえ可愛い。
なんていうか…癒されるっつ~か。
ただ気をつけないと壊しちまいそうで怖いな」
と、感想を述べると、エリザの目がキラキラ光った。
「気をつけるっ?!何を気をつけるの?!」
と身を乗り出されてギルベルトは慌てて否定する。
「あのな、お前が今考えているような事は出来ねえからな?
まだ子どもだし身体だって出来てねえし、その…ちゃんと待ってやんねえと色々傷つけるだろ?」
そこはフライパンで脅されても譲れないと主張したのだが、意外にもエリザは
「愛ねっ!愛よねぇ」
と、それはそれで良いらしい。
「とにかくな、いきなり怖い思いもさせたし、なるべく快適に過ごさせてやりてえんだけど、俺様ほら、戦いしかしてこなかったからな。
俺様にとって普通でも必要以上に怖がらせたり疲れさせたりとかあるだろうし…」
「ああ、そういう意味ね。
確かにそれはあるわね。
あんたが戦場渡り歩いてる人間てのもあるけど、あっちはあっちで外に出た事ない箱入りちゃんだもんね。
あんた相手じゃなくても、普通の人間相手でも世の中びっくりだらけよね」
「あ~…まあな」
「とりあえず…怖い思いをした分、色々楽しいイベント用意してあげると良いかも?
外出た事がほぼないなら、舟遊びとかも良いわね。
冬になったらカマクラとか作ったりとか…」
「お~、いいな」
「まあ、その前に……」
と、そこでエリザの顔が再び険しくなる。
「安心して楽しんでもらえるように、風の馬鹿は少々痛い目に合わせておかないとね…」
「結局そこに戻るのかよ……」
通常なら子どもの事なら女性というイメージで相談に来たが、自分よりまだ武闘派のエリザにそれを求めた自分が馬鹿だった…。
ギルベルトはため息をついて
「んじゃ、そっちは任せたわ。
俺様はお姫さんのご機嫌伺いしてくる」
と、ヒラヒラと手を振って執務室を後にした。
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