(…大丈夫……俺だって出来るっ…出来るんだっ…)
ブツブツと呟きながら顔を近づけ、ぎゅっと目をつぶる。
蚊の鳴くような声でそう言ってさらに顔を近づけ…コツンと自分の鼻がアントーニョの高い鼻先に当たった瞬間…目を開けてみると、もう焦点が合わないくらいに近い距離に、あの憧れ続けた端正な顔があって……
(うあぁああ~~~!!!だっ…ダメだぁぁ~~!!!)
と、慌てて身を起こそうとした瞬間、グイッと片手を掴まれて引き寄せられた。
そしてクルン!と反転する身体。
視界が一気に逆転して、アーサーの上でアントーニョが少し眉を寄せて笑っている。
「待っとったんやけど…逃げんといて、Te amo。
そんなに難しい?」
なんと起きていたのかっ!
もしかして先ほどからの奇行も全部見られてた?!
恥ずかしさのあまり無言で逃げようと試みるが、上からがっしり…でも重さをかけないように痛くないように気を使いながら押さえこまれていて、動けない。
おはようさん、と、上から降ってくる唇の感触の柔らかさに息が詰まった。
ちゅっちゅっと何度も啄むように降ってくる口づけに、緊張とか羞恥とか諸々で死にそうになる。
すでに始まっているドラマの撮影では何度も抱きしめられたり抱き上げられたりしているのだが、それとは全く違う。
だって台本がない。
台本があると思ってやれば良いのだ…と思ってもダメだった。
やっぱりカメラが回ってないところでは、自分は謎の美少女天使ちゃんではなく冴えない15歳の男で、彼も天使ちゃんを保護した青年ではなく、トップアイドル、アントーニョ・ヘルナンデス・カリエドなのである。
もう一緒に暮らすようになって一ヶ月。
つまりアーサー自身がアイドルと呼ばれるようになってからもそれだけたつわけだが、そのキラキラとしたオーラを放つアントーニョの前に出るといつも、彼に憧れて憧れて、少しでも彼が載っている記事はスクラップしているのに恥ずかしくて写真集1つ買えなかった、ただのアーサーに戻ってしまうのだ。
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