可愛い愛しい天使に泣き出されてアントーニョは焦りながらも少し落ち込む。
そりゃあやりたいやりたくないは多少はあるだろう。
自分だってもう何回もしてきたキスシーンの相手の中には、プライベートじゃせえへんな…と思う相手もいなくはなかったが、別に泣くほど嫌だったとかいうことはない。
しかし自分がこの子を相手役から下ろすという決断をしない限りは、慣れてもらうしかない。
そしてアントーニョ自身はそんな決断を下すつもりは毛頭ないのだから、とにかく打開策を探る!
なんだか自分の心の傷をもグリグリえぐる作業になりそうだが、そうも言っていられず、そんなに嫌だったのかときけば、なんと天使はシャクリを上げながら嫌なわけじゃないと首を振るではないか。
本当なのか、社交辞令なのか…判断はつきかねるが、何事も進みながら考えるタイプだ。
さきほどよりは好転したような事態に、アントーニョが
「…じゃあ、なにがそんなに悲しくさせたん?な、親分に教えたって?」
と、ベッドで半身起こしているアーサーの隣に腰をおろし、細い身体に腕を回して肩を抱きながら顔を覗きこむと、アントーニョの天使は白い頬に水晶の粒のような雫をこぼしながら、小さく呟く。
――世界が…違いすぎるから……
うん…もうどないしよ…。
意味わからんけど、なんか可愛え……
”事実は小説よりも奇なり”というが、”現実の天使はドラマのヒロインより可憐”だった。
あかん…これあかんやつや…。
親分、萌え死んでまう…。
と、その肩に額を押し当てて可愛さに悶えるあまり身を震わせていると、グスっと鼻をすする音と共に慌てたような声が降ってくる。
「あ、あの、すみません、意味わからないですよねっ!
ただ…ただっ、そういう習慣ないというか…そういう事したことなかったから、当たり前にしてるアントーニョさんとはやっぱり世界が違うんだなぁって、なんとなく思ってっ…」
「…へ?」
色々突っ込みたいし、指摘したい事もいっぱいあるわけだが…とりあえず一番重要な事を一点……。
「自分…したこと無いって…え~っと…まさかキス?」
いやいや、なんというか、気分が高揚しているのか、後悔しているのか、自分でもわからない。
コクンと頷く天使に、アントーニョはポカンと呆けた。
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