ヒロイン絶賛奮闘中11


解散した足でアントーニョは寮に急ぐ。

ギルベルトに言った事だって全くの冗談ではなくて、あの子が自分の留守中に変な奴に襲われたりとかしないか心配だし、もうひとつには、自分の留守中に彼女が訪ねて来たりしないかと気になる。



あの子はもうどこぞの馬の骨の彼氏ではなく、自分の可愛い可愛い天使ちゃんなのだ。

そこのところを全世界に知らしめなければならない。

まあ明日からは全国放送でしっかり宣伝させてもらうつもりではあるのだが。



そんな事を考えながらタクシーを拾って寮まで戻り、エレベータが来るのを待てずに3階まで階段を駆け上がる。

そして自室前。

少し呼吸を整えて、ポケットから鍵を出す。

ガチャリと鍵穴に差し込んでドアを開け

「ただいま~」

と声をかけると、奥からパタパタとスリッパの音が聞こえてきた。

そして

「おかえりなさいっ!」

と、出てきた姿を見て、アントーニョは絶句した。



なん?なんなん?

楽園はここにあったんっ?!

天使ちゃん、親分の幼妻やったん?!!

「…あ……すみません、普段料理とかしないから、自宅に母の使ってたエプロンしかなくて…。
気持ち悪いですよね。すぐとります」

「え、ええねんっ!めっちゃ似合う取るよっ!そのままとらんといてっ!!」

呆けるトーニョの反応を勘違いしたらしいアーサーが慌ててエプロンのリボンに手をかけるのをアントーニョは焦って止めた。

こんな可愛い構図を崩すのは人間として許されない所業だと思う。



アイドルは夢を売る職業だなんて言われるわけだが、自分自身は初めて夢を買っている気がする。

可愛い可愛い天使が、白いふりふりの新妻エプロンでお出迎えなんて、もう男のロマンまっしぐらじゃないか。

贅沢を言うならここはただ『おかえりなさい』だけじゃなく、やはりそのあとに『ご飯にする?お風呂にする?それとも…』などとやってみて欲しいところだが、それはさすがに引かれるだろう。




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