「ああ゛っ?なん?」
と、いきなり変わる声音。
振り向いた目は殺気立っていて、フランシスは一瞬怯むが、さすがにここが退き時だ。
少し困った笑みを浮かべて種明かしをする。
「は?」
「だから…俺の幼なじみの男。本名アリスじゃなくてアーサーだから」
「はああ???」
嘘っ!嘘やろっ!!これ男っ?!!
あまりの衝撃にクルリと振り向いてまじまじと見るが、可愛い…ありえないほど可愛い。
今まで色っぽい年上ばかり相手にしてきたが、もうこれならイケます、出来ます、むしろやりたいですっ!くらいに好みドンピシャな気がする。
「…おとこ…?」
ソロソロと肩に手を触れると、ビクン!とすくみ上がるその反応も、まんま、守ってやりたい系の可愛い女の子なわけだが……。
どないしよ……。
この子が良い…この子以外考えられない…と思う。
でも実はキスシーンもあるこのドラマ。
アントーニョはこれまで男を恋愛対象にしたことはない。
可愛いとは言え男とキス出来るのか……。
想像してみる。
………
………
………
あ、大丈夫や。
やったことないけど、この子相手やったら本番ベッドシーンでも行ける気ぃするわ。
アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド…。
自分の欲望に忠実な、こだわりのない男だった。
「うん、大丈夫や。この子にしよ」
「いやいや、お前話聞いてた?
その子は例の、お前が普通のオーディションじゃ飽きるからって洒落で仕込んだ俺の幼なじみの男の子なんだってっ!!」
何やらしばらく考えこんでたかと思うと、あっさりそういうアントーニョに、フランシスが慌てて言う。
「あのな、その子はオーディションの候補者じゃねえからっ!
やらねえの前提でここ来てるからっ!」
と、それにギルベルトも言葉を添えるが、アントーニョはきっぱり言い切った。
「親分、この子が相手やないんやったら、この役降りるわ」
「「はああ????」」
「絶対に、絶対にこの子がええっ!」
地団駄を踏みかねない勢いでそう主張するアントーニョに、フランシス達だけでなく、スタッフやプロデューサーも頭を抱えた。
このドラマは人気アイドルであるアントーニョ・ヘルナンデス・カリエドが主演を演ることがウリのドラマなのだ。
他のキャストがいくら変わろうとなんとかなるが、彼に降りられたらドラマ自体が成り立たない。
「いや…せめて女の子だったら正規の応募じゃなくてもそのあたりの融通は聞かせるんだが…」
と、プロデューサーが苦笑すると、アントーニョはさらにきっぱり言い切った。
「男でもええやん。
むしろ祈愛みたいにファンの女の子からの文句とか出えへんでええんやない?
また違う女優連れてきたかて同じ事になるさかい、男の子にしましたって言ったらええねん」
もう一見ハチャメチャなアントーニョの主張は、しかしプロデューサーの気持ちを何故か動かしたらしい。
「ふむ……」
と、顎に手を当てて、アーサーをマジマジと見る。
そして考える…。考える…。考え終わったらしい。
「まあ、口をきかなければ十分ヒロインを演るにたえる感じだし、それも話題性になるか」
「「えええ~~~??!!!!」」
「ちょ、ちょっと待って下さいっ?!」
焦って詰め寄るフランシスに
「まあこのドラマが終わっても、なんなら今度は普通のアイドルとしてユニット組ませてもいいしっ!」
と、プロデューサーの機嫌を損ねたくない3人のマネージャーが慌ててそれに割ってはいる。
「君も…一応応募してきたことになってるわけだしね?
今回はこういう役だけど、このドラマの出来次第ではうちの事務所から売りだしてあげるから」
と、アントーニョの女性問題では散々振り回された事務所の社長もそれに乗る。
憧れのアイドルの腕の中で呆然としている間に、あれよあれよと手続きが進み……
”アーサー・カークランド、性別男、気づけばドラマのヒロインに大抜擢されていました。”
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