「大丈夫かっ?怪我ない?!」
気遣わしげにそう言うトップアイドルの声に、少女はおそるおそる目を開いた。
「平気?痛いとことかない?」
ともう一度聞くアントーニョに、少女も呆然とした表情でコクコク頷く。
それにアントーニョは
「良かった~」
と、心底安堵したように大きく息を吐き出した。
と、そこでマネージャーが立ち上がる。
「へ?」
きょとんと目を丸くするアントーニョ。
「へ?じゃないっ!オーディションで何やってんだっ!
お前がアクションやってどうするっ!」
「あ、ああ~~!!!堪忍っ!!!」
マネージャーの怒声でようやく我に返ったらしい。
アントーニョは笑って頭を掻いた。
「なんやこの子危ないって思うたら、身体が動いてもうた。
もう守ったらなってので頭がいっぱいになって、演技やって忘れてしもうたわ~。
ということでな、この子がええわ。
オーディションはここで終わりなっ」
そう言ってアントーニョは片手で抱き寄せていた少女を両手でしっかり抱きしめなおして、
「ほな、これから宜しゅうな、親分の天使ちゃん」
と、チュッとつむじに口付けた。
腕の中の少女、天使ちゃんは固まったまま震えている。
可愛い。
昨今女優やアイドルはもちろん、普通の一般人のファンだってこうなったら抱きしめ返してくるか、せめて擦り寄ってくるくらいはするのに、その反応はずいぶんと初心で可愛らしいモノに思われて、アントーニョの庇護欲がきゅんきゅん刺激される。
「そんなに固くならんでも、親分がちゃんと全部カバーしたるから大丈夫やで?」
と、自分的にはこれ以上なく優しいと思われる口調で言ったわけだが、少女は腕の中でふるふると首を横に振って、本当に小さな小さな…かろうじて聞き取れるくらい小さな声で
「………無理…」
と言った。
その言葉に少し視線を下にやると、真っ赤に染まった耳元。
よくこんなものに応募なんてしてきたな、と思われるような恥ずかしがり屋らしい。
「無理やないって。ほんま親分が全身全霊でカバーして守ったるさかいな?」
今どきこんなに可愛らしい子がいたなんて驚きだ。
「…親分に全部任せたって?」
と、大抵の女はこれで落ちてきた低く色っぽい声で耳元でささやくと、腕の中の少女はぴゅ~っとアントーニョの腕を飛び出して逃げた。
耳を押さえて真っ赤な顔で…目なんかもう半分涙目で………あかん…これあかんわ…と、アントーニョの中で何かのスイッチが入る。
「堪忍っ。怖がらせてしもた?
大丈夫っ。何もせえへんっ。誓って何もせえへんよ?」
ホールドアップしながらそろそろと近づくアントーニョに後ずさる少女。
物心ついた頃にはトップアイドルとして君臨していたアントーニョはこんな反応を取られたのは初めてでひどく戸惑うが、その一方でそんな純な反応を示す少女が可愛くて仕方がない。
もうヒロインはこの子しかいない。
この子以外ならもうこの仕事辞めてやるっ!くらいな気持ちで近づいていくと、そこで同席していたフランシスから
「ストップっ!トーニョ、ストップっ!!」
と、声がかかった。
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