「オ~ラ、親分やで☆え~っと…アリスちゃん、あーちゃんやね。
頑張ってなっ」
と、これも全員に言っている同じ台詞に同じ笑顔。
まあ皆アントーニョの相手役候補以前にファンなわけだから、ファンサービスの一環だ。
営業用の笑顔を顔に貼り付けて視線を今回の候補者に向けたアントーニョは、その瞬間固まった。
真っ白な肌は羞恥にか緊張にか薄桃色に染まり、瞬きするたびバサバサ音がするのではないだろうかと思われるほど長くクルンとカーブを描いたまつ毛に縁取られた、甘いキャンディのようにまんまるく澄んだ大きなグリーンアイは、やはりこれも緊張のためか半分潤んでしまっている。
何か言いたげにかすかに開閉する可愛らしい唇。
ぎゅっと胸元で握られた綺麗な白い両手も、華奢な薄い肩も、小さく震えていた。
(…うっ…わぁ……めっちゃ可愛え……)
ぽかんと口を開けて呆けたままのアントーニョをよそに、オーディションはこれまでと同様に進んで行く。
「じゃ、とりあえず天使ちゃんが刺されるシーンね」
と、とりあえず演技を見るシーン、これも毎回同じである。
もう10回以上見ている。
天使ちゃん…というのは、今回口がきけなくて名前がわからない少女に主人公がつけた呼び名だ。
部屋が少し暗くなり、候補者のところにライトが当てられる。
薄暗くなった外で何かを探す少女。
少し不安げなその表情はめっちゃ守ってやりたい感じだ。
というか…一人で出歩いたらあかんで。危ないやん…
と、アントーニョはイライラと思う。
そこに少し離れた場所から様子を伺う男。
少女に近づいていく。
その手にキラリと銀色に光るのは鋭利なナイフの刃だ。
「あかんっ!!!」
ガタっとアントーニョが立ち上がって、その勢いで身軽にテーブルを飛び越えていくのを、並んで座るプロデューサー達が唖然と見ている。
それでも演技の方は続いていく。
少女が人影に気づく。
ガラス玉のような目が恐怖と驚きに見開かれた。
それまでは気付かれないようにソッと近づいていた男が少女に向かって疾走する。
振りかざされる刃。
薄桃色の小さな唇を悲鳴の形に開け、声にならない声をあげる少女。
ぎゅっと目を強くつぶって身をすくめる細い身体は、いきなり伸びてきた手に引き寄せられ、ぎゅっと胸元に抱き寄せられた。
「こっのぉぉ!!!何すんねんっ!!!!!」
片手で少女をしっかり抱きしめたまま、走り寄ってくる男を思い切り後ろ蹴りで蹴り飛ばすアントーニョ。
吹っ飛んで壁にたたきつけられる男。
ざわめく審査員。
そんな周りを全く気にすること無く、アントーニョは少女の顔を覗きこんだ。
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