「そんな怖い顔しないの。坊っちゃんだって黙ってりゃ可愛い顔してるんだから」
と、アーサーの眉間に寄った皺を指先でぐいぐい伸ばすフランシスの手をパシっと振り払い、アーサーは低く不機嫌な声で言った。
「いくらだ?アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド、最新写真集限定版定価5800円。
サイン入りだから多少は上乗せするぞ」
財布を取り出すアーサーに、フランシスは苦笑する。
すっごい嫌そうな顔して」
「誰にでもいいっ!さっさと値段言えっ!」
「タダでいいよ」
「へ?」
散々もったいぶったのだから、さぞやふっかけるのかと思いきや、いきなりのフランシスの申し出にアーサーは目を丸くして、次の瞬間睨みつける。
「…何を企んでる?」
「あ、やっぱりそう思う?」
これが他の人間ならとにかく、幼なじみというより腐れ縁と言った方がしっくり来るフランシスだ。
アーサーのために好意でサイン入り写真集をここまで届けたりはしないだろう。
そう思って言ってみれば案の定だ。
「で?条件はなんだ?さっさと言え!」
せっかちなアーサーからしてみれば、そこが優雅と女性ファンからは騒がれるフランシスの間がまどろっこしい。
指でトントントントンと急かすようにテーブルを叩くと、
「ねえ、それやめて。坊っちゃんなんか怖いよ?」
とフランシスは軽く頭を振ってため息を付く。
「怖くなくなりたきゃ早く言えっ!」
と、さらにトトトトトッとテーブルを叩くと、
「相変わらずな子だねぇ…」
と、フランシスは肩をすくめた。
「あのね、坊っちゃん、相手役募集オーディションに参加してよ。」
「はぁ?なんのだ?」
「だから、今度のトーニョのドラマの」
「………はああぁあ???」
Before <<< >>> Next
0 件のコメント :
コメントを投稿