そんなアーサーにはなんと母親同士も親友のアイドルの幼なじみがいる。
しかもアントーニョとは同じ事務所などころか、ユニットを組む仲だ。
もちろん幼なじみには…幼なじみだからこそ、自分がアントーニョのファンだなどと恥ずかしくて言えない。
だから『女友達が欲しがっているから、金は出すからアントーニョのサイン入りの写真集を手に入れろ』と言ったのは苦肉の策だ。
でなきゃこんなカップルか女子同士しかいないようなカフェで男一人寂しく座ってたりしない。
決してこういう場所は嫌いではないが、やっぱり恥ずかしいモノは恥ずかしいのだ。
なんだか周りからジロジロ見られている気もするし、場違いだったか。
イライラしながら腕時計の針が進むのを待っていると、
「坊っちゃん、待った?」
と、少し色の入った茶の縁のボストンタイプのメガネをかけた、どこか華やかな雰囲気の男がアーサーの肩をポンと叩く。
「遅えよっ!」
パシッと手を振り払って後ろを振り向くと、紙袋を手に優男がニヤニヤ笑っている。
「お兄さんにそんな態度取っていいのかな?これな~んだっ!」
と、アーサーの手の届かないところに紙袋を掲げて言う男に、アーサーは忌々しげに舌打ちをして、
「さっさと座れっ!邪魔になんだろっ」
と顎で正面の席をうながした。
メガネとウィッグで変装をしていても、アーサーは一目でわかるこの幼なじみがアイドルであることが周りにバレないかと、一瞬あたりを見回したが、幼なじみでアイドルのフランシス・ボヌフォワは、
「堂々としてれば意外にバレないものよ?」
と笑うと、ウェイトレスを呼んでカフェオレを注文する。
長い足を組んでにこやかに微笑むその姿は芸能人オーラがヒシヒシと出ている気がするのだが、本当に不思議と誰も気づかない。
まあいい。
こいつがここでファンにもみくちゃにされようが、俺には関係ない…と、アーサーはそう割り切って
「寄越せっ!」
とフランシスに向かって手を出した。
それに対して本当に気に障る事に、フランシスは目の前で人差し指をたてて、チッチッチッと指を振る。
そんな馬鹿みたいにお定まりの動作さえ絵になるのが、ムカつく。
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