「ね、見た?今週の【WorldA】!浅葱祈愛、今度のトーニョの相手役降ろされたんだってっ!」
「あ~、見た見たっ!いい気味~!あの子ちょっとくっつきすぎだったもんね。
トーニョってフレンドリーだからさ、女の方がすぐ調子に乗るのよねっ!」
街全体がクリスマスの飾りでキラキラと輝いている。
そろそろカップルはデートの、女の子達は女子会などの計画に胸おどらせる季節である。
そんな街中の少しオシャレなファッションビルにあるカフェ。
そこでアーサーは人を待っていた。
周りはカップルや若い女の子達。
そんな中で男一人待つのはとても居心地が悪いが、相手の指定がここなのだから仕方ない。
でもやっぱり気まずくて、そんな気まずさを誤魔化すように来たら一発蹴りをいれてやろう…くらいには思っていたのだが、ふと後ろの女子高生達の会話が耳に入ってきて、アーサーの意識はそちらへと向けられた。
今人気のアイドル、アントーニョ・ヘルナンデス・カリエドの名前…。
それが出た途端、立ち聞きなど紳士のすることではないと思いつつも、耳をすませてしまう。
元気いっぱいの子役から見事アイドル俳優へ転身成功。
今や日本でも有数の人気アイドルでTVドラマやバラエティ、歌番組でも引っ張りだこである。
ややフレンドリーすぎて共演する女性アイドルや女優達との噂が絶えないのが玉に傷と言われるが、それだって、どちらかと言うと誰にでも愛想の良いアントーニョの性格のせいか、女性側の問題と片付けられる事が多い。
今回のも春から始まるドラマの相手役の女優とあまりにドラマを超えて親密に見える事が問題視されて、女優の方がドラマを降ろされたという話のようだ。
少女達からすると、愛するアイドルに近づく女は皆敵ということらしい。
だが…浅葱祈愛が降りても別の女優がまたその役に付く事になるわけだし、本人達が代わりになれるわけじゃないのにな…と、アーサーは一瞬思って、しかし次の瞬間、いや、自分よりはまだ可能性はあるのか…と自嘲する。
何を隠そう、アーサーはアントーニョの隠れファンだ。
もちろん別にアントーニョの相手役をやりたいわけでは当然無くて、近くで見たい、一度くらいは言葉を交わしてみたい、その程度の野望なわけだが、男が男のアイドルのファンなどと下手すれば気味悪がられそうな事をカミングアウトできるわけもなく、さも女性アイドルの誰かが気になってますというような顔でこっそりアイドル雑誌を買うのが精一杯。
写真集すら手に入れる事が出来ず、本屋でため息をつく。
0 件のコメント :
コメントを投稿