ふんわりとしたシーツの上…
ひどく甘い疲労感を感じながらイギリスは目を覚ました。
隣には確かに人がいたぬくもりがまだ残るものの、記憶を飛ばす前にいたはずの相手の姿は消えていて、イギリスはスッ…と、シーツに残る窪みに指で触れると、ため息を零した。
…昨日は…ギルと……
と、思い出すと自然に頬が熱を持つ。
好きだと言われて、付き合って欲しいと言われて、ちょうど1年。
どうせすぐ飽きるのだろうと信じ切れないイギリスを、毎週末さまざまな花束を手に訪ね続けたプロイセンにプロポーズされたのは1カ月と少し前。
1カ月悩んでOKを出して、所詮国としての本質ではなく便宜上にすぎないはずの人間の戸籍だが籍をいれて、昨日、教会でプロイセンの側からはドイツ、イギリスの側からはカナダ、そして2人の親しい友人と言う事で日本だけを呼んで、おままごとのような結婚式まで上げたのだ。
そうしてプロイセンが用意したロンドン郊外にある小さな2人だけの家に引っ越して、寝間着に式の時のヴェールだけ身につけて、今度は神様にではなく、互いにたいして永遠の愛を誓い合って、愛し合った。
幸せだと思った。
幸せすぎて涙がぽろぽろ零れて止まらなくて、怖いならまだ身体を交わさなくても良いと労わるようにプロイセンに言われた事で、余計に幸せな気分になってわんわん泣いた。
違う、怖さや辛さで泣いているわけではないのだ…と、泣きじゃくりながら説明するイギリスの話を辛抱強く聞いてくれたあとで、プロイセンは
『じゃあこれから一緒に暮らすのに水分をいっぱい用意しねえとアーサーはあっという間に干からびちまうな。俺様はずっとお前を世界で一番幸せにするつもりなんだから』
と笑って、これ以上なく優しく優しく抱いてくれたのである。
本当に可愛いレディでもない貧相な男のイギリスを、あんなに大事に抱いてくれる相手は世界中探したっていやしない。
だから、今、1人にされて寂しいなんて思うのは我儘なのだ。
おそらくシャワーでも浴びに行ったのだろうプロイセンは、それでもじきに戻って来てくれるだろう…そう思うが、初めて愛を交わした後に1人にされると、やっぱり自分なんかでは良くなかったのだろうか…などと悲観的な考えに押しつぶされてしまいそうになる。
そこでそんな悲観的なイギリスをいつものように笑い飛ばして欲しくてイギリスはプロイセンの元へ行く事にして、身を起こした。
そうして半身を起こすと腰に鈍い痛み…
それは紛れもなく自分がプロイセンに愛されたのが夢ではない証拠だ。
そう、自分はちゃんと愛されている…。
確かにそのはずなのに、いつもいつも愛を拒絶され続けたこれまでの経験が、焦りの気持を呼び起こしてしまう。
大丈夫…大丈夫…
プロイセンはちゃんと自分を愛してくれているはず……
そんな焦燥から慌ててベッドから降りるが足に力が入らず、イギリスはへなへなとその場にへたりこんだ。
そしてぺたん…と、へたりこんだ衝撃で、足の付け根から太ももを、昨日胎内に出されたものが伝ってくる感覚がして頬を赤く染めた。
「アルト、どうしたっ?!…あっ……」
と、その物音に寝室のドアが開いて、さきほどまで会いたかった相手が顔をのぞかせた。
「…ギル……」
動いたら絨毯を汚してしまいそうで動けずに顔だけあげるイギリスに、プロイセンは
「大丈夫か?立てるか?」
と、手を差し出してくれるが、そうしている間もトロリトロリと足の間を出されたものが流れ伝っていく感覚にただただ顔を赤くするイギリス。
黙って硬直しているイギリスを見て、その白い太ももを伝うものにそこでようやく気付いたプロイセンは
「あ~…」
と、苦笑した。
「胎内に出しちまったからアルトを洗ってやろうと思って浴槽に湯を張ってたんだけど…そろそろ溜まったかな。
連れてってやるよ」
と、ひょいとイギリスを軽々抱き上げて、プロイセンはそのまま浴室へと直行する。
ああ…そうだったのか…
イギリスを洗うために寒くないように浴槽に湯を張ってくれるためにいなかったのか…
イギリスのために………
その言葉にホッとしすぎてまた涙が溢れ出た。
するとプロイセンはぎょっとしたように
「悪い、昨日激しくしすぎたか?!
どこか痛むか?!」
と、イギリスの顔を覗き込んでくる。
ああ…本当に大丈夫…愛してくれているんだ…
こんな貧相な身体を抱いた後でも変わらないプロイセンに心の底からホッとしながらも、目を覚まして1人きりだったのが怖かったのだと、くすんくすんと甘えるように鼻をすすりながら言うと、プロイセンは、
『よく寝てたから声かけて起こすの可哀想かと思ったんだけど…声かけておけば良かったな。不安にさせてごめんな?』
と、優しく微笑みながら謝ってくれた。
プロイセンの申告は当たり前だが本当で、丁寧に寝間着を脱がされて浴室に入ると、そこには適温の湯が張られた浴槽。
横抱きにされたままぽちゃんとゆっくりと降ろされて、プロイセンの身体を背もたれにするように身体を伸ばして座らされると、温かさが冷え切った体のみならず、心まで全体に染みわたる気がした。
ずっと怖かった。
愛を失う事を恐れていたイギリスに、プロイセンは湧き出る湯のように愛を注ぎ続けてくれる。
身体中を満たす湯のように温かい愛情に身を沈めながら、イギリスはもう、愛を失くす事を恐れる日々と別れを告げる事となるのであった。
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