寮生はプリンセスがお好き6章_9

遥か昔…下級貴族の男がいた…。
貴族としては下級だが領地は豊かで資産家。
ゆえにいわゆる成り上がり者ではあるが、没落した上級貴族の家の美しい娘を妻にする事が出来た。
娘は高貴な生まれでありながら、生まれた時にはすでに家が没落していたせいか、貴族にありがちな気位の高さはなく優しく穏やかな性格で、2人は政略結婚ではあるが互いを想いあって幸せに暮らしていた。
…が、男が資産家であったがゆえに、悲劇は起きる。
娘が嫁いできて1年の月日がたつ頃…娘は子を身ごもったが階段から足を滑らせて流産。
結果子を産めぬ身体になった。
男はそれでも娘を愛したが、周りは跡取りがない事を許さない。
なので娘と離婚をせぬ代りに、子を作るための側室をもつことになった。

だが男は側室に手をつけない。
ゆえに…最初の側室は男の親族と通じて離縁され、2人目の側室は別の男と駆け落ちした。
そして3人目は…男が手をつけてこないのが妻のせいだと思い、使用人と共に事故にみせかけて妻を殺害。
だが男にバレて殺された。
そこで男は犯人の片割れである使用人が、実は3人目の側室の実家と通じていて、3人目の側室を妻とするために男の妻が流産をするよう仕組んでいた事を知り、葬儀にかこつけて3人目の側室の実家の親を呼びつけてこれを殺害。
妻を害した者を全て断罪したあとに守れなかった事を悔みつつ妻の後を追った…。

その無念さ悲しさ辛さがドッと脳裏に流れ込んで来て、気が狂いそうになる。
そしてそれが収まった時、ギルベルトは暗い部屋に居た。
それは昼間…ギルベルトが引きずり込まれた部屋だった。

しかし昼間感じたような嫌な気配はない。
そこはただ多くの悲しみと悔恨…そして安堵に満たされていた。

静かにたたずむ男…
顔色は青く、疲労の色は濃く…しかし今はどこか安らいだ表情で部屋の奥に視線を向けていた。

――守る任を与えられた者よ…それを超えて守る意思を持つか…?

静かな問い。
それに対してギルベルトは一片の迷いもなく頷く。

すると男は穏やかに微笑んだ。
微笑んで

――ならばそれを口にして伝えよ…常に伝え続けよ…それが真に守ると言う事だ…

そう言うと、す~っと暗闇に消えて行った。


不思議な事にあれほど不吉さを感じた部屋が、今は和やかで温かい。

そうして部屋の奥、ひときわ温かさを感じる古びた天街付きの寝台の上に、ギルベルトの失せ物は丁重に横たわらされていて、無事その手に返還されたのであった。




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