寮生はプリンセスがお好き6章_8

そうして呼びだされた使用人達。

他の使用人達は何故か縛られている見知らぬ男達にポカンとするばかりだが、1人若い男の使用人の顔から血の気が失せる。

「…何か…知ってそうだな」
と、そのことに即時に気付いたカインがそう宣言をすると、ビクッと後ろへ逃げようとするが、ドアの両側に控えていた1年生寮長組に取り押さえられた。

ガタガタとただ震える男。

無理もない。
その左腕をしっかりと拘束しているギルベルトからはかつてないほどの殺気が溢れ出ている。

「もう他はどうでもいい。うちのお姫さんはどこだ?!」
そう言う声は低く、怒りをなんとか押し殺した感じだが、男はただ首を横に振るばかりだ。

「言わねえつもりなら…俺様にも覚悟があるぞ…」
と、懐から出すナイフ。
ギラリと光るその刃はよく磨き抜かれている。

「いっきに指を切り落とすなんて甘い真似はしねえ。
指一本一本の爪を削ぎ落とすところから始めるからな…」
と、掴んだ男の手の指先の爪の間にナイフをあてると、男のみならず部屋のあちこちから悲鳴があがる。

それまでいつでも淡々と自体を静観していた金竜寮のプリンセスさえ初めて蒼褪めて寮長にしがみついた。

「ま、待ってくれっ!!本当に知らないんだっ!
俺は脅されてそいつらを船に隠して乗せて来ただけでっ!!!」
と、申告通り本当にただの一般人なのだろう。
男は泣き叫んだ。

と…その時……どこからともなく冷たい風が吹いた。

ぞわり…と嫌な感覚がする。
それにギルベルトだけが気づく。
これは…昼間に白昼夢のようなものを見た時の感覚だ……


――主の…妻に害をなそうとする使用人…それだけで万死に値する…

自分の声とまるで違う声が自分の意志とは関係なく自分の口から発せられた事にギルベルトは驚愕した。

ナイフを持った手が自然に使用人の男の首元へ…

「軍曹っ!そこまでやったらやばいっ!!」
とカインが叫んで立ち上がろうとするが、何か見えない力に押さえつけられたように椅子から立てない。

「…っ!俺様じゃねえっ!!」
必死に自らの手をコントロールしようとしながらギルベルトは叫ぶ。
プルプルと震える手。
見えない力に必死に抗おうと試みるギルベルトを嘲笑うように、そのギルベルト自身の口から

――ほう…我の意志に抗うか……

と、自身とは違う声がまた発せられる。

そうしている間にもじりじりと使用人の男の喉元に近づく手。
くそっ!!とそれでも抗おうとするギルベルト。

…こんなところで……と、それは自分に言い聞かせるように発せられた言葉…

「…俺様はっ……こんなとこでっ…犯罪者になって捕まるわけには…いかねえっ…んだよっ!!お姫さんっ守れなくなっちまうだろうがーーー!!!!

パンッ!!!
と、すごい破裂音がして、身体を支配していた何かが離れていく気配がした。

一気に抜ける力。
そのまま床にへたりこみそうになる足を叱咤して、ギルベルトはなんとかその場に立ち続ける。

どうやら力から解放されたのはギルベルトだけらしい。
他はピクリとも動かない。

そんなギルベルトの目前にぼんやりと形をつくっていく影。

「…お前…誰だ…。俺様のお姫さんを攫いやがったのは、お前か?!」

全身の力が抜けて立っているどころか言葉を発するのも辛いが、自分の辛さなど関係ない。
自分はプリンセスを守る一振りの剣で…それ以上に重要なことなどない。

気力を振り絞ってそう言って影を睨みつけると、その影はうっすら笑った…ような気がした。

――子を為さぬ妻でも…守り慈しんでいくか…?

「お姫さんの事ならっ…俺様の命に換えたって守るに決まってんだろうがっ!
俺様はっ、お姫さんを守る一振りの剣でっ…お姫さんはっ…この世で一番っ大事な…っ…俺様の…プリンセスだっ!!!


――よかろう…

叫んだ瞬間に脳内で声がして、視界がグルグル回った。

ものすごい勢いで情報がなだれ込んでくる。



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