こうしてしばらくは和やかに歓談。
プリンセスはまずいと、好みのタイプ談義はそれぞれ同級生の中なら…と言う方向になって行く。
同級でイケそうなのはいねえなぁ…」
と、上から順に降りてきて、最終的に1年の金、銀となった時にギルベルトは困ったように頭を掻いた。
(…そう…なのか…。まあそうだよな……)
と、その言葉にアーサーは内心少し気落ちする。
何故がっかりするのか…と、そんな自分をバカバカしく思いもするのだが…
だってギルベルトは同性のアーサーから見てもカッコいい。
本当にカッコいい。
可愛らしいレディにだってモテるだろう。
たまたまギルベルトの同期の銀狼寮のメンバーが自分を副寮長に選んだからこうやっていつもいつも優しくしてもらえるが、それは飽くまで寮長としての仕事だ。
(…義務で優しくしてくれているのを愛情なんて勘違いしたりはしないけど……)
と思いながら、はぁ……とため息をついた瞬間だった。
――義務ではない…きっかけはなんであれ我はそなたが愛おしい…
「え?」
いきなり聞こえた声にアーサーは目をぱちくりさせてあたりを見回した。
「どうした?お姫さん」
と、見下ろして来るギル。
本当に耳元で聞こえた声。
ギルではない…というか、それなりに年齢のいった男性の声だった気がするが……
こんなに密着している状態のギルに聞こえていないのはおかしい…。
(空耳…か…)
と、アーサーは小さく首を横に振る。
あの声はもしかして願望だったのだろうか…
ギルベルトの優しさの意味がちゃんとわかっているようでいて、わかっていなかった自分の……
温かく力強い腕…
こんな風にそれに守られているのもギルベルトが高校に…そしてアーサーが中学に在籍している3年間だけだ。
それを過ぎたら以前言っていたように身の振り方に困った時には面倒くらいは見てくれるかもしれないが、その頃にはギルベルトも社会人だろうし、この腕の中には綺麗なレディがいて、今アーサーがされているように大切に大切にお守りされているのだろう。
だから慣れ過ぎてはいけない…と思う。
今は副寮長、プリンセスとして遇されていたとしても、アーサーは所詮ギルベルトの伴侶になれたりはしないのだから…。
今こうやってまるでレディのように大切に気遣われているせいだろうか…
そうやっていつかギルベルトの腕の中に本当の伴侶となるべき美しいレディが収まる日がくるのがひどく悲しい気分がするのは…
たぶん…こんなに大切にされたのが初めてだったから、アーサー自身も色々錯覚をしているのだろう。
(…子どもだって…産めないしな……)
と、そこでまたため息。
――子が成せなくても構わないのだ…そなたさえ側にいるのなら…
「え??」
幻聴にしてはあまりに鮮明な声。
驚きの声をあげてアーサーがあたりを見回した瞬間……ふぅっといきなり室内の灯りが消えた。
そして…ふわりと身体が浮いた気がした…
その瞬間、確かに自分の身体を包み込むように回されていた筋肉質な腕の感触がなくなってアーサーはパニックを起こす。
(ギルっ!!ギルっ!!どこっ?!!!)
と、発したはずの声は空気を震わす事もなく、どこかへと消えて行く。
さきほどまでそこにあったはずのモノが一切消えたような感覚…
まるで身体がジェットコースターで滑り落ちた時のような感じを覚えて眩暈がする。
真っ暗な視界……
ぼんやりとその暗闇が薄れると、目の前に浮かびあがったのは見たことのない部屋。
そして…まるで中世の貴族のようなクラシカルな服装の見知らぬ男…
年の頃は40くらいだろうか……
顔立ちは端正だが、疲労の色の濃いやつれて蒼褪めた顔。
乱れた長い髪…
そして…妙にない生気と気配……
――家のためなどではない…子が成せなくても構わない…愛していたのだ……
ああ…さきほどから聞こえていたのはこの声だ…とアーサーは気づいた。
伸ばされる手…
動かない自分の身体…出ない声
そして…唯一動く目だけを向けて気付いた…
薄暗い室内を照らす松明の灯りに照らされた絨毯の上…そこに確かにあるはずの男の影がないことに……
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