寮生はプリンセスがお好き4章_22

そんな風にフェリシアーノに対してのギルベルトの気持ちが少し変わりかけているのを当然のように悟っているのだろう。
フェリシアーノがたたみかけた。



「今は…少なくともこの学園に通ってる間は俺はそういう学園の権力争いの面からするとターゲット外だよ?
万が一従姉妹のお姉さんがコケたとしても、次には兄ちゃんがいるしね。
兄ちゃんの他にも従兄弟はいるから、表向き他家の人間になった俺は親族の中では後継者から一番遠いように思われてるから。
でも裏ではちゃんと状況の報告だけは受けてるから情報は得られる。

10人いる理事のうち身内は3人。
理事長の代理を務める側近と爺ちゃんの兄弟の子、つまり俺達の親の従兄弟が2人。
そのあたりは味方。
あとの7人は色々な国の色々な方面の有力者の代理。
今回の騒動はたぶんその7人の誰かの差し金で、前理事長暗殺もたぶんその中のどれかの勢力が関わってる。

今回の事は…たぶん学園の不祥事になっちゃうから元々そういう非常時対応訓練イベントでしたって形で揉み消されると思うし、今回みたいに校外に小人数で出るとかいう事がない限り、物理的に命の危険にさらされることなんて早々ないとは思うけどね。
それでも…万が一そんな方向になりそうな空気があれば報告出来るし、副寮長としての諸々だって相談に乗ってあげられる。

ね?ギルベルト兄ちゃんにとっても悪い話ではないと思わない?」

ニコリと天使の笑顔。

…もしかしたら悪魔の誘惑の笑みかもしれないが…と、ギルベルトは内心思う。
………思うのだが………

天使なら良し、悪魔でも逆にお姫さんに危害が及ばず、自分が堕ちる事によってお姫さんに迫る害を排除できるなら……
まあ…いいか!

しばらく俯いて考えていたが、パン!と膝を叩いて息を吐き出すと、ギルベルトは顔をあげてフェリシアーノに視線を向けた。

「了解だ。
とりあえず敵対はしねえ。
お姫さんの身に危険が及ばない限りは協力しても良い。
その代わりお姫さんに少しでも危険が及びそうな事があったら即報告だ。
それがフェリちゃんの側にちょっとばかし都合が悪い事だったとしてもな。
もしそれを隠してた事があとでバレたら俺様は全力で敵対すると思っといてくれ」

「大切な大切なお姫様だもんね。
こちらも了解だよ」
ギルベルトの言葉にフェリシアーノは少し小首をかしげておかしそうに笑う。

少し抜けててヘタレで可愛いプリンセスの姿はなりを潜め、抜け目のない知能的反逆児の姿がそこにあった。

そのあたりの感情的な駆け引きはあまり得意ではないギルベルトには勝てる気がしてこない。

「あ~そうだよ。
大切な大切なお姫さんだからな?
お姫さんに楽しく平和な学園生活提供してくれるっつ~んなら、俺様はいくらでも利用されてやるから、よろしく頼むぜ。
で?当座どうして欲しいよ?」

がりがりと頭を掻きながら半分やけくそでそう言うギルベルトに、フェリシアーノはとうとう声をあげて笑いだした。

「うん、そうだね。
当座はあれじゃない?
お姫様がどれだけ自分にとって大切か、学園中に知らしめることから始めたら良いんじゃないかな?」

「はあ?」

「俺は少しの労力でたくさんの見返り欲しいからさ。
お姫様が手を出しても大丈夫な相手じゃなくて、手出しすればギルベルト兄ちゃんとバイルシュミット家が全力で動く、バイルシュミット家が後ろ盾になっている子って思わせれば若干手間暇が減るかな~って」

からかわれているのかと思えばちゃんと意味があるアドバイスらしい。
さっそくの忠告にギルベルトは感謝の意を述べた。

「そうだな。さんきゅ。
明日から俺様、学園の中心で愛を叫んでみるわ」
と、前向きに善処する事を伝えてみれば、

「そこまではやめてあげて。アーサーが可哀想」
と、思い切り冷ややかな目で切り捨てられる。

「ま、何か動きがあるか、して欲しい事がでてきたらこちらから連絡するよ。
ギルベルト兄ちゃんからも何かあったら言ってね」

とりあえずの交渉の可決で一息ついた時には、外はすでに明るくなっていて

「そろそろ帰らないと寮生にみつかっちゃうね」
のフェリシアーノの一言で、お開きになった。


「んじゃ、また猿のように退散すっかな」
と、それを受けて窓枠に足をかけたギルベルトは、ふと思い出して動きを止めた。

「兄ちゃん?どうしたの?」

自身は仮眠を取ろうと思ったのかベッドに向かいかけていたフェリシアーノがそれに気づき、サラリと髪を揺らして振り向く。

「…いや…ちょっと一つだけフェリちゃんの意見をきかせてくれ」
「ん。なあに?」
「今回のターゲット…アルフレッドだって言ってただろ?」
「かもしれない…ってだけだよ?状況的に。でも絶対とは言えないね」

「あいつは別にフェリちゃんの一族と関係あるわけじゃねえよな?」

「うん。もし本当にターゲットだったんだとしたら、さっき言った通り理事会の10人中7人は外部の色々なサイドの人達だからさ、そのどこかの相手にとって邪魔な人間だったか、もしくは交換条件か何かで暗殺依頼でも受けてたのかもね」

「…そうすると……お姫さんに近づかせねえ方がいいのか…」

巻き添えは怖い…そう思って言うが、フェリシアーノは少し考え込んで、それから首を横に振った。

「確実にターゲットだったって確信がもててるわけじゃないし、意識しない方が良いと思う。
むしろ今回の真相に気づいてるって思われたら逆に証拠隠滅のために狙われる可能性もあるから、心の中で警戒はしても表に出しちゃダメだよ?」

「…あー…そうだよなぁ」

自分だけなら挑発して出て来たところを叩くのが一番手っ取り早い気がするが、お姫さんを守ることを考えるとそういうわけにもいかないだろう。

どちらにしてもそろそろタイムリミットだ。
ギルベルトは慌てて自寮に戻った。





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