そこで最初の話」
考え込んでいる間に用意してくれたらしい。
フェリシアーノが――時間ないしインスタントだけどね――と、小テーブルにコーヒーのマグを置いてくれる。
「最初の?」
ダンケ…と礼を言いつつそれを一口。
思考の海に沈みがちな気持ちを少し切り替えて、ギルベルトは自分もコーヒーのマグを片手に側に立つフェリシアーノを見あげた。
「うん。俺の重大な秘密って話ね」
「ああ、それか」
「うん、それ」
フェリシアーノは言いながらまたベッドに腰をかけた。
そしてカップに顔をうずめる。
「これね…俺と兄ちゃんと養父の叔父さんと片手の指の数ほどの腹心と専任弁護士しか知らない。
とっておきの秘密だよ」
伏し目がちに言うフェリシアーノ。
珍しくその顔から笑みが消えている。
少しためらうように考え込んで、コーヒーを一口。
そして口を開いた。
「俺の爺ちゃん、ジュリアス・ヴァルガスは政財界に多数のコネを持っていて、その縁で50年前、この学園を作った学園の創始者なんだけどさ、俺の父さんは次男で親戚に養子に出されてて、さらに俺はその家の次男でさらにその知り合いの家に養子に出されて今に至る……って言うのが俺の公けのプロフィールなんだけどね……」
「…なんだけど?」
「うん…実は跡取りなんだ」
「は?」
「俺が爺ちゃんの跡取り。
新理事長のプレジデントEっていうのは俺の事」
「はああ??????」
驚いた。
色々裏がある人間だとは思っていたが、これはさすがに予測していなかった。
「ちょっと待てっ!
じゃあつまりは今回の諸々は……」
そう、自分じゃないと言いつつ諸悪の根源なんじゃないか…と、さすがに思って言うと、フェリシアーノは小さく首を横に振った。
「俺じゃないからね。
二度目の招待状は俺じゃない。
だから最初から色々警戒して疑ってかかってたってこと」
「…なるほど……」
まあ…ここは嘘ではないだろう。
騙すならわざわざ本来の主催であるという身分を明かす意味はない。
それなら全てが怪しいと思っていたと言うのも納得だ。
「色々複雑なんだけど、最初から話すからちょっと聞いてね」
「おう…」
「まずね、この学校ってさ爺ちゃんのとてつもない人脈で出来たものなのね。
通ってる生徒ってすごい家の子いっぱいじゃない。
物騒な話、この学校牛耳っちゃえば各国の要人の子息人質に取れちゃうわけだしさ。
でも爺ちゃんすごい人だったから、誰も手を出せなかったの。
で、爺ちゃんが年取って来て誰に継がせるってなった時に、色々…ね、非合法な手を使ってもこの学校が欲しいって輩がいっぱいいてね、爺ちゃんは保険を打ったわけ。
俺と兄ちゃんは双子って事になってるんだけど実は従兄弟。
俺は長男の子で兄ちゃんは次男の双子のうちの兄。
で、爺ちゃんは本来の跡取りの俺を守るために兄ちゃんの本当の弟と俺を入れ替えて育てたんだ。
と言う事で俺は次男の家の次男てことになったんだけど、血筋でいる間は危ないってことで、さらに血縁じゃない家に養子に出されてるのね。
その養子に出された先っていうのがちょっと複雑なんだけど爺ちゃんの次男の奥さん、つまり俺のお母さんってなってる人のお兄さんの家。
ようは…俺の叔母さんの実家ね。
そこで俺は色々生き残るための術を教わりながら育ったの。
実際…爺ちゃんがなくなってから俺の身代わりに俺の両親に育てられた従兄弟は表向きは事故でなくなってるしね。
爺ちゃんのあと、正式な理事長職を継いだ父さんも去年原因不明の事故で亡くなった。
で、爺ちゃんの遺言でね、この学園の理事長職って爺ちゃんの直系親族から順に、直系がいなくなったら上から順に、継ぐことになってるんだ。
で、跡取りが未成年の場合は公けへのお披露目は成人した時って事になってるから、今は俺はおおやけには出ないで、爺ちゃんの代からの側近に命じて代理として色々やってもらってるんだけどね。
今おおやけで発表されている順番では長男が亡くなって長男の子も亡くなってる事になってて、子ども達もなんのかんので亡くなってるから、長女の1人娘、次男の息子ってことなんだけど、たぶん学校を牛耳りたい人達からすると女の子が継いでくれた方が牛耳りやすいと思ってるみたいで、従姉妹のお姉さんが跡取りって匂わすように、非公式に名乗る名前をお姉さんの頭文字のEを取ってプレジデントEってしたら、今のところ一族への攻撃が止んでるんだ。
もちろん成人したら俺は表に出ないといけないし、そうしたら矢面に立つ事になるから、それまでにこの学校で出来る限り有力な家の人間を味方にして力をつけないとってわけ。
今は…俺には正体も不確かな相手を敵に回す力はないし、力がない状態で立ち向かったらたぶん殺されて終わっちゃう。
だから従姉妹のお姉さんがね、色々覚悟の上で爺ちゃんの学園を守るために汚名を被ってくれることになってるんだ。
俺が成人するまでは全ての運営については自分が全面的に委任されてて、それまでに起こった不祥事は全部自分の裁量で行った事で俺はノータッチって事にしなさいって言われてる。
そういう事にしたうえで、俺が力をつけて爺ちゃんの跡を継いで仕切れるまで、生き残って俺に引き継ぐのが責務だって。
だから俺は絶対に力をつけなきゃいけないし、死ねないし、みんなが自分を犠牲にして守ってる爺ちゃんの学校を守っていかなきゃダメなんだ。
学校は爺ちゃんと俺達だけのためのものじゃないよ?
爺ちゃんはもともと普通の学校だと特別視されて距離を置かれちゃうような家の子ども達が普通に友達作って普通の学校生活が送れるようにって願って作ったのがこの学校なんだから。
俺達はそんな爺ちゃんの理想を守りたいんだよ」
「なるほど…な」
裏が全くないかというとわからない。
ただ全くの嘘ではないというのはわかる。
確かにこの学校の半数以上は世界各国の有力者の子息だ。
それを手にするという事はとてつもない権力を内包する事になるというのは納得だ。
そして…フェリシアーノの祖父の前々理事長という人物には幼い頃に会った事がある。
強引で大雑把で…目的のために手段を選ばないところがないかといえばないとは言えないが、その目的自体にはたいてい悪気のない、憎めない好人物という印象だった。
なるほど…ああ、本当になるほどだ。
アーサーの事がなければむしろ積極的に手を貸してやりたい事情ではある。
…が、今はそういう自身のポリシーとか方針よりも優先すべき大切なものが出来てしまったのだ。
お姫さんの安全…それが第一だ。
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