寮生はプリンセスがお好き4章_18

とりあえず可哀想だとは思うが明け方に帰宅後すぐルートを起こして自分の代わりにアーサーの添い寝係に任命し、自分は銀竜寮へ。

もちろん訪ねる相手はフェリシアーノだが、今はまだ薄暗い明け方で、表向きは可憐な姫君を訪ねる時間帯ではない。


ということで…ギルベルトはこっそり銀竜寮内に忍びこむと手頃な木を伝ってフェリシアーノの部屋の窓をノックする。

すると緊張の連続で寮に着く頃には疲労でフラフラしていたギルベルトのお姫様と違って、こちらは余裕で起きていたらしい。

「そろそろ来る頃だと思ったよ」
と、少し悪い笑みを浮かべ、フェリシアーノは窓を開けてギルベルトを室内に招き入れた。


「…お見通しってか?」
と、驚く様子もないフェリシアーノにため息をついて見せれば

「そりゃあね。大事な大事なお姫様の安全にも関わる事だしね?
ギルベルト兄ちゃんなら絶対に来ると思ってたよ」
と、フェリシアーノはことさら邪気のなさげな愛らしい笑みを返してきた。


中身を知らなければただただ友好的な印象を受けるが、性格に裏がある事にギルベルトが気付いた途端、実に悪い笑みを浮かべて

――DKなんてほとんどが単純で馬鹿だしねっ!
などと天使の笑みを浮かべつつ言い放つ相手だ。

文字通りの意味になんて捉えようがない。


「今何か淹れるから座ってて?」
と勧められた椅子に腰をかけるも、

「話を聞きたいだけだから、何も要らねえ。
本題入らせてくれ」
と、飲み物などは固辞する。


「やだなぁ。今日の事があったから?
俺は毒なんていれないよ?」
「…だろうな。
自室で毒殺なんてした日にはさすがのフェリちゃんでも落ちた評判のリカバリは難しいだろうしな」

良くも悪くも感情的になれば飲み込まれる。
ギルベルトが務めて感情を出さないように淡々と言うと、フェリシアーノは

「ひどい言い方だなぁ。俺、傷ついちゃうよ」
と言いつつも、それほど気にした様子もなく、軽く肩をすくめてギルベルトに寝室には一つきりしかない椅子を勧めてしまったので自分はベッドへと腰を下ろした。


「ま、いいや。
これでやっと交渉の席についてもらえそうだし?」

スプリングの上で小さく足を揺らしながら、フェリシアーノは小首をかしげて窺うようにギルベルトに視線を合わせる。

笑顔だが目が笑っていない…
それはギルベルトがフェリシアーノを見ていてよく思う事だ。

今もまさにそれで、落ち着いていそうに見えてどこか緊張をはらんでいる気がする。

「…今回の諸々…フェリちゃんの仕業なのか?
何が目的なんだ?
お姫さん巻き込む気なら……」

「あー、ストップっ!
ギルベルト兄ちゃんの中で俺ってどんだけ悪者なの?
確かに俺は裏表あると思うし、目的のためには手段選ばないところもあるのは認めるけど…けどね…」
「けど?」

「その目的自体はそんなにすごい事じゃないんだよ?
ただ他人に害されずに平和に楽しく暮らしたいだけ。
そんだけ」
「………」
赤い目でジッと自分を睨みつけるギルベルトにフェリシアーノは苦笑した。

「あのね、わかってる。
ギルベルト兄ちゃんは俺を信用してない。
だからまず俺の方から秘密を全部晒すよ。
それが公けになったら多分俺は殺される。
だから兄ちゃんがもし俺に協力しようとするまいと、それは絶対に他言無用ね?
そのあたりのギルベルト兄ちゃんの良識は信用してるからね?」

「…わかった……聞くだけは聞く」

「うん。ありがとう」
と、それは珍しく裏の無いホッとしたような笑みをこぼして、フェリシアーノは少し目を伏せて話し始めた。





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