ショタペド戦士は童顔魔術師がお好き【第二章】8

「そろそろやんな」

サンサークルの都を出てから数日…。
いつもよりは随分とゆっくり着いたのは東の中規模の街、イーストウッドの都。
城砦都市として有名なこの街は、魔人からの攻撃から数日。
なんとぎりぎり持ちこたえていたらしい。

『もうダメだ。東門が破られそうだっ!』
『市民を西門から非難させろっ!!』

そんな怒声が飛び交っている中、聖騎士の来訪を告げると、疲れた様子だった兵士達から歓声があがった。

『聖騎士様がいらしたぞっ!!』
『おおっ!!しかもアントーニョ様じゃないかっ!!
現在現役最強と言われる方だぞっ!!』
『やったっ!!これで街が救われるっ!!!』
歓声とともに西側の門が開かれ、アントーニョ達は街の中へと迎え入れられた。


門をくぐった途端、割れるような歓声と共に、室内に避難していた市民達が英雄を一目見ようと自宅から飛び出てくる。

その様子を目の当たりにして、つい最近までは自分もその市民の一人だったアーサーは、改めてアントーニョの雄姿に感動した。



「堪忍、ちょっと通したってな。防衛の責任者はどこ?」

無理にお付きに道をあけさせることもなく、少しでも英雄に近づこうとする市民達にもみくちゃにされながら、求められるまま握手をしたり、子どもの頭を撫でたりしつつ、アントーニョは進む。

これが他の聖騎士だと任務優先で道をあけさせるのだが、このあたりがアントーニョだ。
一見建設的ではないが、親しみを覚えた民がしばしば他よりも熱心に色々協力してくれるので、これはこれで実は効率的には悪くはないと、ギルベルトは思う。
まあ…自分はそんなキャラではないので、真似をしようとは思わないが…。

やがて
「こら、聖騎士様も遠路いらしてお疲れだっ!皆道をあけないかっ!!」
と、むしろ街の兵士達が人員整理をし始める。

それに対して
「ええよ、ええよ。みんなに乱暴にせんといてな~。親分は平気やさかい」
と、ニコニコと応じるアントーニョに、市民の人気は目に見えてウナギ登りに上昇しまくりだ。


「いえ、町長の家に歓迎の準備をしておりますので、少しお休みになって、お疲れが取れたらご出陣頂ければ幸いでございます」

ピシっと敬礼をして言うのは、生真面目そうな男で、他の兵士よりも装備が立派な気がするので、おそらく軍の中でも偉い方の人間なのだろうが、言うことがズレている気がする。

「あ~、もう直接現場行くで。お休みしとる場合ちゃうやん」
と、さすがにアントーニョも思ったのか苦笑交じりに言うと、男は困ったように
「しかし…遠路駆けつけて頂いたのにおもてなしもしないで…と、町長が…」
と、眉を寄せた。

現場がわかっていないのはどこも同じだな…と、ギルベルトは思うが、それを彼らに言っても仕方ない。

自分が口を出すと物事は進むが角が立つ気がするし、ここはアントーニョに任せた方がよさそうだ…と、黙って様子を見ることにする。

するとアントーニョは
「ギルちゃん、親分一足先に行くから馬貸したって。
自分はアーティ護衛しながら馬車で追って来てな」
と、さっさと指示を出すと、

「町長にはあとで親分も一緒に怒られたるわ。
親分が1杯茶を飲む間に、この街の子どものおとんが数人死んでまうやろ?
首都やなくても、違う街でも、子どもは国の宝やで。
出来れば両親揃って健やかに育つべきや。
もてなしてくれる言うんなら、戦いが終わった後に、子どもたちに郷里の歌でも歌ってもらえたら嬉しいわ」
と、実にショタペドな彼らしいセリフを吐いて馬に飛び乗り、鞭をいれて走らせていった。

しかしそれをショタペド発言と思ったのは、どうやらアントーニョの人となりを知るギルベルトだけだったらしい。

「さすがアントーニョ様…。
やんごとない身分にお生まれになって素晴らしい力をおもちなのに驕る事なく、本当に人格者でいらっしゃる…」
と、さきほどの兵が感服しきったようにほぉっとため息をつくと、周りも一斉に大きく頷く。

あまつさえギルベルトの隣でもアーサーが
「やっぱりトーニョはすごいよな。
弱気を助け強気を挫く…本当に聖騎士の鑑だな…」
と、キラキラとした目を遠ざかるアントーニョに向けていた。

いや…違うから。
あいつは本気で町長とかジジイの相手すんの面倒で嫌なだけだから。
子どもと戯れたいだけだから。
それだけだから……。

ここにフランシスでもいればそんな話で盛り上がるところだが、あいにく彼は首都でストライキ中だ。

ここでそれを口にすれば、下手をすれば自分がコンペイ党と一緒に兵士や市民達に退治されかねないので、賢明なギルベルトは口をつぐむ。

ショタペド戦士は子どもが大好きなのだ。
…しかし、彼が子ども以上に好きなもの…童顔魔術師を任されている以上、ギルベルトものんびりとはしていられない。

「俺らもトーニョの後追うぞ」

馬車の中のアーサーに声をかけ、ギルベルトは自ら御者台に飛び乗ると、周りのお付きに声をかけ、馬車馬に鞭をくれる。

とりあえずアントーニョは嫌がるだろうが、アーサーも組み込んだ戦闘を考えなければならない。
それにはアントーニョが敵を倒し切ってしまう前にどさくさに紛らせなければ…。

どうか…戦闘が終わった後、もてなしてくれるであろう子どもが可愛い子揃いで、アントーニョの機嫌がなおりますように…。

おそらくアーサーを戦闘に出す事など考えていないであろうから、出してしまえば機嫌が急降下するであろうアントーニョを想像し、そんなことを神に祈りつつ、ギルベルトは馬車を飛ばすのであった。





『可愛え子ども?ギルちゃん、アホちゃう?これだから汚い大人はあかんねん。
子どもは子どもやってだけで十分可愛えんや。
可愛くない子どもなんてこの世にはおらんわ


…と、アントーニョなら言うであろうところまでは、年下好き、世話好きではあっても、ショタペドの境地にまでは足を踏み入れてはいないギルベルトには想像はつかない。




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