夜…ギルベルトと組んでた頃は当たり前に睡眠は馬の上だったが、今回は大事な可愛いお宝ちゃんを連れているので、最寄りの村に寄り、きちんと宿を取る。
ギルベルトはポカン…とした顔をしていたが、文句は言わせない。
病み上がりのこの子に無理をさせるくらいなら、魔人退治など断固として拒否してUターンだ。
そもそもが旅人が寄るような場所でもないのだろう。
小さな民家を改造したような小さな宿は全部で5室しかなく、全員は泊まれないので、アントーニョとアーサー、それにギルベルト以外は村の外で野宿である。
こうして、一応聖騎士とは言え見知らぬ場所で少人数でいて何か妨害でもあれば全く危険がないということもないだろうと、3人は身分を隠してお忍びで宿に泊まることになった。
部屋はもちろんアントーニョはアーサーと同室で、ギルベルトは一人楽しく一人部屋だ。
夕食も部屋で食べられるように用意してもらって、少し時間は早いがそれぞれ部屋に戻って休むことにする。
ショタペドモードのアントーニョをキレさせない距離に常に心を砕いていたギルベルトにとっては、ホッと一息つく瞬間であった。
決してアーサーが嫌いなわけではないが、今回の護衛は本当に気を遣うし疲れる。
最初、二人部屋と一人部屋を頼むと、当たり前にアーサーが一人部屋に案内されそうになって、本人は
「ああ、やっぱりトーニョやギルは聖騎士として一般人と違うオーラが出てるからなんだな」
などと至極生真面目に頷いていたが、違うと思う。
アーサーが身にまとったふわりとした淡いグリーンのマントが、元々細い体格を隠し、印象的な大きな丸い目とそれを縁取る瞬きするとパサパサと音がしそうなくらい濃く長い睫毛が、成長しきっていない少年を少女に見せたのだろう。
そこにアントーニョが実に恭しく気遣うような態度を取るものだから、余計に勘違いされたようだ。
そもそも、普段他人に対して一番あっさりした態度を取っているが、こうと思った人間に対して一番極端な態度を取るのはアントーニョである。
嫌う時は思い切り…それこそフランやギルベルトが引くほど嫌悪をあらわにするし、こうして好きだと思うと、そのかしづきっぷりもすごい。
普段から色男を自称するフランも真っ青な勢いの甘い笑みや言葉のオンパレードだ。
誘いをかけながらも、どこか言葉遊び的なところがあって、相手に引く余地を残しているフランと違って、アントーニョはどこまでも飽くまで甘く優しいが、愛情でがんじがらめにして、決して相手を逃さない勢いがある。
嫌われるにしても好かれるにしても、本気のアントーニョは怖いとギルベルトは思うのだが、当のアーサーは与えられる愛情をただただ甘受するばかりで、そうは感じていないのは幸いだ。
自分が関わらない前提なら、本当に幸せそうに大事に大事に自分のいとけない様子のパートナーの世話をするアントーニョも、少し戸惑いながらも嬉しそうにそれを受け入れるアーサーも見ていて微笑ましい……が、今回のようにアーサーの護衛をするとなると、距離感が難しい。
遠すぎたら護衛が出来ないし、近づきすぎるとアントーニョがキレる。
実際のところギルベルトも弟のいる兄なので、年下の世話は嫌いではない。
たぶん、普通にこのまだ幼さの残る風貌の新人のフォローを頼まれたら、休暇返上になったとしても引きうけているだろう。
アントーニョがあれだけデロデロに甘やかしているわりに、アーサー自身はそれで調子に乗ったりすることもなく真面目で、ギルベルトに対する態度などもとても礼儀正しい、感じの良い少年だ。
若干人見知りが強く、パーソナルスペースが広いが、ギルベルト個人としては変に馴れ馴れしいタイプよりも好感がもてる。
これがアントーニョが溺愛中のパートナーじゃなければ、もう少し近い距離で親身になって色々教えてやるところだ。
だが今回は、その好印象が…まずい。
気をつけてないとギルベルト自身が適切な距離感が保てず揉める気がする。
いくら好意を持てるような相手だとしても、アントーニョと揉める事はご法度だ。
アントーニョの警戒心を刺激しないような距離を保ちつつ、戦闘経験がないアーサーに危険がないように…しかし戦闘に慣れさせてやること……それが今回の自分の課題だと、ギルベルトは部屋に落ち着くと、一人生真面目に考え込んだ。
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