こうして哀れな社畜…もとい国畜が帰ったあと、ついたての奥にいるようにとの指示を守ってじ~っと息を潜めていたアントーニョの愛し子は、ひょこっと可愛らしい小花模様のついたての陰から顔をのぞかせた。
不思議そうにアントーニョに問いかける大きなグリーンの瞳。
一応顔合わせの時に挨拶はして、お互い若干は知る身とはなったものの、アントーニョが他には極力会わせないようにしているので、アーサーはそれ以来エリザとキク以外とはほとんど話をしていない。
――それぞれ個性的なメンバーやしな。あんまいっぺんに多くの人間と会ったら疲れてまうから。アーティはまだ病み上がりなんやし必要な事は全部親分がしたるから、ゆっくり養生しとき。
さすがは優秀な聖騎士だ。
アントーニョはアーサーが実はあまり人づきあいが得意ではないと、わかってしまったのだろう…とアーサーは感心した。
そして、実に優しい言葉と共に実際他を遠ざけてくれてしまうため、ついつい甘えてしまって今に至る。
このままではいけない…そう思いつつも、アントーニョが優しく優しく、本当に大切なもののように接してくれるため、強い意志も持てず、強固にも言えないのである。
「…ちゃんと皆と連携取れるように馴染まないといけないのに…迷惑かけてごめん……」
と泣きそうな気分で…実際に緩い涙腺が半分決壊しかけた状態で言うと、アントーニョはいつも大きな手で頭を撫で、目じりにキスを落としながら
「ええんやで。アーティは親分とだけちゃんとやってけたら、全然問題あらへん。
親分が必要なやりとりは全部やったるし、疲れる事とか苦手な事はせんでもええよ。
パートナーの親分と仲良うすることだけが、アーティのお仕事やからな」
と、小さな子どもに向けるような本当に慈愛に満ちた笑みをむけてくれるのだ。
今日もそんなやりとりをしたあと、アントーニョはコツンとアーサーの額に自らの額を押しあてて、
「ん…今日は熱はないな。身体しんどない?大丈夫か?」
と、エメラルドのようにキラキラと輝く綺麗な瞳で心配そうにアーサーの顔を覗き込んでくる。
しょっぱなに熱を出して寝込んだりしたため、アントーニョはアーサーがひどく弱い者だと思っているらしくとてもとても過保護で、冷たい風や暑い日差しにすらあてたがらない。
日々、まるで生まれたての赤ん坊のように、大事に大事に保護されていた。
「…別にもう治ってから半月近くたってるし……」
と、気恥ずかしさに少し俯くと、せっかく逸らした視線をまた合わせるように、アントーニョはさらにかがんで顔を覗き込み、
「単に床上げから半月たっただけやで?起きれるようになってからまだ半月や。
絶対に無理せんといてな?」
と、頭を撫でてくる。
「ほんま、こんな子ぉを西の果てからこんな遠くまで一人で旅させてきたと思うと、親分今でも胸が潰れそうな気分になるわ。
世の中にはコンペイ党やなくても危ない輩も仰山おるし、体調かてこの城に着くまで持って良かったとつくづく思うで。
途中で倒れたりしてたかと思うと、ぞっとする。
そんなんでアーティに何かあったとしてたら、親分、あの時アーティの事連れ帰らんかったの死ぬほど後悔したと思うわ」
と、アントーニョがぎゅうぎゅう抱きしめて頬を擦り付けるのもいつものことだ。
そして最後にいつも
「ほんま…親分がなんでも助けたるからな。絶対に無理したらあかんよ?
アーティに何かあったら、親分本当にショックで死んでまうよ?」
と、ひどく気遣わしげに言うので、アーサーも真剣な顔でコクンと頷いた。
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