「まだ病み上がりのあの子をもうこき使おうなんて、鬼やな。可哀想に…。
コンペイ党以下の鬼畜の所業やで」
こうして本来の自分の仕事でもなく、さらに言うなら休暇中のはずなのに使い走りをしているギルベルトに返ってきたのは、同僚の冷ややかな視線と言葉。
「現地まではちゃんととびきりの馬を用意するから…」
「馬車や。そんな数日も馬に揺られるなんてありえへんわ」
「わかった。馬車を用意させる」
まあ…それくらいは事務方に言えば出てくるだろう。
…というか、それでこのショタペドが動いてくれるなら安いものだ。
…うん…ここ半月の間、出動につぐ出動で寝不足MAXの自分にすらそんな待遇を与えられた事はなかったけど…。
疲労のあまり移動中の馬に自らの体くくりつけて眠った事も良い思い出だよな…ハハハ……
ギルベルトは遠い目をしながらも、確約する。
「ああ、でもそのええ馬言うのも一緒に用意してや。
せっかく遠出するんや。景色のええあたりやったら、馬上で直に風当たるのも気持ちええかもしれへんし」
………
………
………
………物見遊山…?
そんな言葉が脳内をぐるぐる廻る。
ああ…こいつ殴りてえ…。殴らせてくれ…。
と、切実に思うが、実際に出るのは
「………わかった」
という言葉。
しかしこれで終わりかと思えば、アントーニョの要望はまだまだ終わらない。
「とりあえず…移動はそれでええとして、親分が戦っとる間、アーティに敵向かったりしたら危ないから、護衛にギルちゃんついたってな」
との言葉にはもう目が点だ。
え?え?今回俺ら動かさねえためにトーニョ達出すんじゃねえの?
という心の声は、何故か普段は他人の気持ちどころか言葉までガン無視してくれる悪友の脳内にしっかり届いたらしく、
「“フラン”はストライキ中やんな?まああいつはあとでどついとくわ。
ギルちゃんはほんま、仲間思いでええ奴やんなぁ。
休暇中やっていうのに、慣れとらん新人のサポートに自主的についてきてくれるんやもんなぁ」
と、にこにこ語る。
なあ…殴っていい?こいつ本気で殴っていいか?
…と一瞬ひきつる笑顔。
しかし実際に出てくる言葉は
「じゃ、そういうことで伝えておくぞ」
もう言葉が通じないショタペドとこれ以上交渉して決裂するより、休暇返上で護衛業務の方がよほど精神衛生上によさそうだ。
とりあえず了承は取れたということで、ギルベルトは事務方に報告に戻った。
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