あの時はキクと二人、案内役の使用人に付き従われてここまで来たわけだが、今隣にいるのはあれほど憧れたアントーニョだ。
しかもきっちりと礼装をした…。
正直自分のような人間がこの場にいるというのは非常に不似合いな気がする。
だって黒地に金色の刺繍の立派な礼服を着たアントーニョはいつもにもまして精悍でカッコイイ。
ハッキリ言ってアントーニョほど黒の似合う男は他にはいないと思う。
こういう色合いで固めるとストイックで精悍さが増すが、そのくせ笑みを浮かべると甘いなんて反則だ。
宿舎を出て本城へ入ると城に仕えている侍女や貴族の娘などが明らかに熱い視線を送ってくるが、それにデレデレとすることなく目もくれず、しかし親の静止を振りきって駆け寄ってくる小さな子どもには礼服が汚れるのも構わずしゃがみこんで視線を合わせ、話を聞いてやり、慈愛に満ちた笑みとともに頭を撫でてやる。
こんなに下心なく清廉潔白で優しい人間などアーサーは見たことがない。
まさに聖騎士だ…と思う。
そんなアントーニョの隣にいるのが自分のような貧相な魔術師なのが申し訳なくもいたたまれなくて俯いていると、そんなアーサーにすら気づいてポンポンと肩を叩いて気遣ってくれる。
ああ、アントーニョは本当に完璧だ。
自分も少しでも隣にいるのに恥ずかしくないような聖騎士にならなければ…アーサーはそう決意を固くする。
こうしてなんとか会場となっている広間まで辿り着いた。
「アーサーさん、お久しぶりです。お加減はいかがですか?」
どうやら立食形式らしい。
中央の大きなテーブルにご馳走の山、飲み物は使用人達がトレイを持って回っている。
室内にはおそらく軍の上層部や有力な貴族もいるようだ。
広間に入ると、まず先に来ていたキクが声をかけてくれてホッとする。
やはりいきなり知らない相手は敷居が高い。
「ああ、キクにも心配かけたな。でももう大丈夫。
…トーニョにはいっぱい迷惑かけたけど……」
入り口から少し離れた窓際に立つキクとエリザの方へ向かい、そう言うと、エリザも
「元気になって良かったわね」
と優しく声をかけてくれる。
「トーニョはね、元々世話好きだから遠慮することないわよ。
なんでもやってもらっちゃいなさい」
と、幼なじみらしい気楽さでエリザは言うが、それでなくても世話をかけすぎだとアーサーは恐縮した。
しかし当のアントーニョも
「アーティーは初めて丸ごと親分のモンになった親分のパートナーやからな。
遠慮してやらせてくれへんけど、ほんまはおはようからおやすみまで何もかも全部の世話したいくらいなんやで?」
などとリップサービスをしてくれる。
「…毎日それに近い気がするけど……」
と日常を思い出して言うアーサーに、
「全然足りひんわ~。
やって、熱下がってからアーサー着替え手伝わせてもくれへんし、ご飯も自分で食べてまうし…風呂かて自分で歩いて行ってまうやん」
と、アントーニョは断固として主張する。
うあああ~~~とその言葉にアーサーはワタワタと動揺した。
『何それkwsk!!』と、目を輝かせるエリザ。
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