ショタペド戦士は童顔魔術師がお好き【第一章】19

「お前な~皆して新人怯えさせんなよ」
と、いつのまにやらそこにいて、身を乗り出したエリザの腕をつかむ銀髪の男の方にふと視線をやった瞬間…

「なになに?そんな可愛いの?トーニョもしかしてもう食べちゃった?お兄さんも味見~」
と、ヌッと後ろから伸びてきた手がアーサーの顔を覆うヴェールをめくる。

それにアーサーが驚きの悲鳴をあげそうになった瞬間、その男が目の前でヘナヘナと床に崩れ落ちた。
すさまじい殺気にアーサーは今度は悲鳴も出ない。

「エリザ…ちょお仕置するさかいな、アーサー頼むわ」
ボキボキと指を鳴らして黒い笑みを浮かべるアントーニョを慌てて止めるのはエリザともう一人の銀髪の青年だ。

「トーニョ、フランはこっちでなんとかするからっ!」
「わりいっ!こいつはあとでみっちりギルベルト式鍛錬させて煩悩は飛ばしとくからっ!!」
と、すがる二人に、キクも青くなって

「アーサーさん、人見知りな方なのでアントーニョさんがいないと心細いと思いますしっ!!!」
と、ぐいっとアーサーを前面に押し出してくる。


もちろんこうなったらアーサーも参戦するしかない。

まあ…何故か突然激昂して、幼なじみの二人の言葉にも全く耳を貸す様子のないアントーニョが、自分ごときの言葉で動くとは思えないけど…と思いつつも

「…トーニョがいないと……」
と、アントーニョの服の裾をソッと掴むと、それまでしっかりと男の襟首を掴んでいたアントーニョがパッと手を離してアーサーを振り返った。
何故かそれだけの言葉で動いたらしい。

「あ~そうやね。こんな変態構っとる場合やなかったわ。堪忍な~」
と、いきなり抱きしめられて額にくちづけが落とされた。


しかしせっかく助かったというのに性懲りがないというか、学習能力がない男なのだろうか。
フラン…と呼ばれた髭の男はやれやれと立ち上がって、性懲りもなく

「子どもに手を出すショタペドに変態なんて言われたくありません~」
と言った瞬間、アントーニョに後ろ蹴りをかまされて、再度床に沈んだ。


「自分…アホちゃうかっ?!
自分みたいな変態ならともかく、親分がちっさい子ぉに手出すわけないやろっ!!
ちっさい子ぉはな、手出したらあかんっ!
ちっさい子ぉは安全な場所で充分な保護を与えて安心しきって幸せそうにしとるのを愛でるもんやでっ?!
無体な事したら愛でられなくなるやんっ!!
ちゃんと育ってないような子ぉに無体な手の出し方するような輩は人類の敵やっ!!
容赦なく叩き潰すでっ!!
ちっさい子ぉがあちこちでキャラキャラ可愛く笑いながら暮らしとる楽園を壊されるくらいやったら、親分は鬼になるわっ!!!
親分はちっさい子ぉの暮らす楽園の守護者やでっ!!!」

(…以上、正統派真性ショタペドの心の主張でした……)

と、ギルベルトは空気を読んで心の中だけで言うと、ヘタれたフランシスを回収していった。


その横では
「素晴らしいですっ!
ええっ、嫁は一枚の壁の向こうで愛でるモノっ!そこで手を出してはダメですよねっ!!
さすが聖騎士っ!!感服しましたっ!!」
と、何故かキクは拍手喝采している。

「とりあえずね、さっきの変態がフラン、回収していった方がギルよ。
あの辺りには気を使わないでいいからね。
何かあったら私に言ってくれたらどついてあげるから」
と、何事もなかったようにニコニコと説明をしてくれるエリザ。

一人ついていけずポカ~ンと佇むアーサー。
そんなこちらのやりとりを遠巻きに眺めつつ、きゃいきゃいとはしゃいでいる令嬢達。

ああ、確かに全員美形だから、聖騎士ということもあるし、人気者なんだなぁ…と、アーサーは改めて他人ごとのように思った。



令嬢達の視線は特に自分とアントーニョに向けられている気がする。
たぶん、がっかりされてる…。

こんなにかっこよくて人格者のアントーニョのパートナーがこんなにちんちくりんで貧相な子どもなのだ。
自分だってガッカリすると思う。

なんだかいたたまれなくて俯いていると、スッと綺麗なグリーンの液体の入ったグラスが差し出された。

「ライムのソーダやで。ちゃんと親分が毒味したからな」
と、まるでその澄んだジュースのようにきらきら透き通るグリーンの瞳で微笑まれて、いたたまれなさにじわりとまた緩い涙腺が決壊しかけると、アントーニョは少し困ったように眉を寄せて

「あんな変態に絡まれてびっくりしたし怖かったやんな。堪忍な。
もう絶対に近寄らせへんから大丈夫やで。泣かんといて」
と、言うと、少し身をかがませた。

綺麗な顔が近づいてきた…と思うと、チュッと目元にたまった涙が温かい唇に吸い取られる。

きゃぁ!という令嬢達の悲鳴が遠くに聞こえるが、もうそれどころじゃない。
いっぱいいっぱいすぎて涙も出ず、目を思い切り大きく見開いて硬直していると、

「ああ、もうしゃあないな」
と、小さく笑ってアントーニョの大きな手がアーサーの頭を引き寄せたかと思うと、顔を胸元に押し当てられた。





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